VCは黒子 起業家が実行
SmartTimes グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー 高宮慎一氏

2020/10/16付
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞 日経産業新聞 Smart Times

社外取締役やアドバイザーとして投資先の経営に参画することを「ハンズオン」という。ハンズオンで経営支援するベンチャー・キャピタル(VC)は、成長を目指すチームの一員として同じ船に乗り、苦しみも喜びも共に味わい、同じ景色を見ていく。しかし、VCの役回りは特殊であり、その立場に留意しながらスタートアップとの信頼関係を強化する必要がある。

テクノロジー分野のスタートアップに数多く投資し、社外役員として経営を支援。支援先には、アイスタイルやナナピ、メルカリなどがある。東京大学経済学部、ハーバード大学MBA卒。

テクノロジー分野のスタートアップに数多く投資し、社外役員として経営を支援。支援先には、アイスタイルやナナピ、メルカリなどがある。東京大学経済学部、ハーバード大学MBA卒。

私がVCとして投資先の経営を支援するにあたっては、VCは「あくまでも黒子である」という点を肝に銘じている。VCの方が、様々な産業や企業を横断的に見ていて、多くの他社事例やベストプラクティスを知っているかもしれない。 しかし、実行するのはあくまで起業家だ。起業家は組織全体を動かし、確実に経営を遂行していかなければならない。だからこそ、経営判断する際には、起業家が腹落ちしないまま理論上のベストな(ベストと思われる選択をしたとしても、後々ベストでなかったと判明するのがスタートアップなのだが)選択肢を選ぶよりも、次善かもしれないが起業家が納得してしっかりと実行に移せる選択肢を選ぶことの方が重要だ。

例えば、起業家と経営判断が必要な局面で議論する際には、次のことを心掛けている。まずは判断の前に、「こういう考え方もある」「この点は考慮したほうがよいだろう」といった判断するための基準をなるべく複眼的に示す。そして、この基準を重視するならこの選択肢、違う基準に重心を置くならこの選択肢といった形で、多くの選択肢を提示するようにしている。自分の意見は、判断基準とともに述べるようにはしているが、結論そのものより、「なぜその判断基準を重視するのか」という理由付けに力点を置くことを大事にしている。

自分の意見を押し付けることなく、別の判断基準を重視すれば、新しい可能性が見つかり、その結果間口を広げることができる。そして、どんなに議論が白熱しても、最後は起業家が決めるようにしている。

スタートアップの場合、環境変化は激しく、また日々新たなことが判明してくる。そうした事態に対応していくためには計画、実行、チェック、次の行動という「PDCA」のスピードこそが重要なのだ。さらに、VCはアドバイザーの側面と同時に、株主としての側面を兼ね備えている。責任感がある起業家は、過度に株主を慮ってしまうこともある。よって、VCは自分の発言が株主の発言として思っている以上に重みをもってしまうことを意識する必要がある。伝え方、タイミング、シチュエーションには配慮が欠かせない。

起業家は世の中で希少な存在だ。彼らが思い描く未来を実現するため、陰ながら支え、答えを導いていく。未来を創るインフラになれるのがVCの醍醐味なのだ。

[日経産業新聞2020年10月16日付]

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