タイ料理店 通販への挑戦 家でもおいしく、DXの成功例
奔流eビジネス (通販コンサルタント 村山らむね氏)

日経MJ
コラム(ビジネス)
ネット・IT
2020/10/16付
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NIKKEI MJ

「クルン・サイアム」。あるパーティーで出会った社長の経歴と人懐っこさに興味を覚え、店を訪問したこともある。そんなお店が5月に通販事業「スースーデリ」を始めたということで気になっていた。開発された新メニューのおすすめをスースーチャイヨー(東京・目黒)の川口洋社長に送ってもらい、支払いついでに開発の苦労も聞いた。

味へのこだわりはもちろん、作り方などもわかりやすく説明する

味へのこだわりはもちろん、作り方などもわかりやすく説明する

元外務省の川口さんがタイレストランを始めたのは2004年。今年2月段階で首都圏を中心に展開するほか、タイ・バンコクにも店舗を構えるまでに成長した。それがコロナの影響で1店舗を閉鎖。タイのお店も契約を見直し直営ではなくなった。このようなリストラと並行して通販事業を検討し始めたのが3月。5月中旬にスタートした。

そのプロセスは、レストランの通販事業にとって非常に重要な点を網羅している。

まず再現性の高い調理方法とパッケージだ。レストランの味を取り寄せると簡単に言うものの、本当にレストランで食べるように再現性の高い商品に仕上げるのは難しい。感心したのがおいしさに加えて簡単さ。ほとんどが冷凍パウチをそのまま湯煎でき、簡単な野菜の調理で完成する。開発に加わった広報担当者も「何度も取り寄せてもらうため調理と冷凍庫の負担をできるだけ小さくした」と話す。

次に楽しく簡単なチュートリアルだ。写真だけでなく手書きのイラストや、タイ人シェフの顔もふんだんに利用したメニューごとの作り方は読むだけでも楽しい。

最後に顧客視点で調整を繰り返した点だ。消費者と同様の状態でモニターすることを重要視しているそうで、味の調節を頻繁にやっているそうだ。また「他社からいろいろ取り寄せて食べてみて、太ってしまった」と川口さんは苦笑していた。「通販に関しては、おいしいものをおいしいままに届けることを一番の目的にしている」と、味の研究に余念がない。

今回の通販事業のために、瞬間冷凍機やスチームコンベクションなど、200万円超の投資が必要となったが助成金を利用したことで持ち出しは最低限に抑えた。

むらやま・らむね 慶大法卒。東芝、ネットマーケティングベンチャーを経てマーケティング支援のスタイルビズ(さいたま市)を設立、代表に。

むらやま・らむね 慶大法卒。東芝、ネットマーケティングベンチャーを経てマーケティング支援のスタイルビズ(さいたま市)を設立、代表に。

予想外の引き合いもある。他のレストランなどから利用したいと大口の見積もりがいくつか来ているそうだ。オペレーションに負担をかけず本格的な料理を取り入れたいと考える現場にピッタリで、今月から千葉の中堅テーマパークで提供されているという。

会社全体で4月に前年度比3割まで落ち込んだ売り上げをテークアウト、ウーバーイーツ、通販などで挽回。7月は単月黒字を達成できた。

リアルの集客に加え宅配、通販、そして法人営業。事業の柱の多重化に成功したスースーチャイヨーはDXの勝利者だと思う。「おいしい料理をおいしいままに食べてもらいたい」という願いが、図らずもコロナをきっかけにデジタルによって実現した。今まで顔はよく見ていたが名前を知らなかった常連さんが、通販を注文してくれたことで住所や名前を知ることができたといった収穫もあった。

気づいたらDXしていたというような、小さな、しかし確実なDXこそが、日本の飲食業を拓くのではないかと思っている。

[日経MJ2020年10月16日付]

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