デジタル世代の文化祭 仮想世界で他校とも交流
奔流eビジネス (D4DR社長 藤元健太郎氏)
そろそろ秋の文化祭シーズンが訪れるが今年は多くの高校や大学などが動画配信などのオンライン中心のニューノーマルな文化祭開催となっているところが多い。

例年5月に行われる東大の五月祭も今年は9月に動画などオンライン開催となった。今年はじっくり自分の興味のある展示を探せ、進学希望の高校生が大学生とじっくり話をできたなどオンラインの良い点も生まれたようだ。
そうした中で筆者の母校の筑波大学付属高校はデジタルネイティブな世代らしい文化祭に挑戦している。メタバースと呼ばれる仮想空間上に校舎を作り、仮想世界での文化祭に挑戦するのだ。
仮想空間は今回のコロナ禍で外出できない人が多い中で盛り上がりをみせた分野のひとつだ。これまでもオンラインゲームとして仲間と一緒に戦うなど明確な目的達成型の仮想世界は多数存在していたが、マインクラフトという自分で世界を自由に構築して楽しむスタイルのものが登場してから同様のものが増えた。対戦ゲームだったフォートナイトは全世界でユーザー数が3億5千万人を越え、最近では戦うだけでなく、ダンス大会をしたりミュージシャンがライブする会場になるなど、巨大な仮想世界としての楽しみ方も広がっている。
今回付属校が利用するのはclusterと呼ばれるVR上に比較的簡単に仮想世界を構築できるようにしたベンチャーのサービスだ。本来はリアルの文化祭用に用意していた予算で新しい高性能パソコンを購入し開発している。
取材に行った時も有志の高校生達が学校のパソコンルームで3Dの校舎や文化祭の会場を製作していた。「仮想世界で」というのは文化祭実行委員を中心に生徒の発案で、まさに自らの手で新しい世界そのものを創造している。

プログラミングができなくても美術部や写真映画部などの生徒はイラストや写真、動画編集などを担当している。プロモーションビデオを作りネットで配信したことで親や先生達もどんな文化祭になるのかイメージをつかむことができ、同様なことを考えている他校との交流も広がることにつながっているようだ。
実験を兼ねた本番さながらのプレイベントも開催した。校内を歩きまわるとバンド演奏の映像もちゃんと流れ、曲にあわせて自分の分身であるアバターが拍手したりリアクションできたりする。こうして創り上げていくプロセスに多くの人が関われるのもデジタルならではと感じた。
仮想世界ならではのバリアフリーでのハンディキャッパーの学生参加なども生徒達は考えている。仮想世界だからこその工夫や新しい課題の探索にもつながっている。文化祭の枠を越えて、これからの社会の仮想化を自ら考える学習の場としてのメタバースの活用も広がるのではないか。
IT教育はパソコンの使い方やプログラミング教育のようなイメージがあるが、デジタル革命をけん引する世代にとっての自己表現や創造性をどのようにデジタルテクノロジーを活用することで体験するかが本質なのだろう。コロナだから仕方無くオンラインではなく、まさにデジタル文化を創造するための祭になる可能性を感じる。
[日経MJ2020年10月9日付]