「あつ森」の緻密なゲーム設計 目立ちすぎず、でも見つけやすく
先読みウェブワールド (山田剛良氏)
大ヒットを続ける任天堂「あつまれ どうぶつの森」。東京ゲームショウ(主催・コンピュータエンターテインメント協会、CESA)に合わせて発表された日本ゲーム大賞 2020でも最優秀の大賞と経済産業大臣賞を受賞。早くも今年を代表するゲームタイトルになった感がある。

ゲームらしからぬのんびりゆったりした雰囲気や、すき間の多い平和的な世界観。巣ごもりに合致したとされるこの世界観は、実はものすごく緻密に計算されている。
9月上旬に開かれたゲーム開発者向けイベント「CEDEC 2020」(主催・CESA)で任天堂の開発者らが講演で明かした「あつ森の秘密」を少し解説したい。
「歩いたり走ったりしているだけで遊びのきっかけに出会えるが、主張しすぎない」とゲーム画面設計の秘密を説明したのはアートディレクターの高橋幸嗣さん(任天堂企画制作部)だ。
あつ森はシリーズではじめてHD画質を導入し、大幅に情報量が増えた。飛んでいる生き物、川には魚の影、実っている果実など様々な「遊びのきっかけ」を大量に埋め込み、ユーザーが気付けるようにした。一方で画面に登場する「遊びのきっかけ」は、プレーヤーを邪魔しすぎないように、かつちゃんと気分を盛り上げるように慎重に情報量をコントロールしている。
ユーザーが想像する余地を残す考え方はBGMや効果音(SE)の設計も共通する。
あつ森ではシリーズで初めて生楽器によるBGMを導入し、音色はリアルになっている。その分ピアノやベース、バスドラムの音などを意図的に抜いて情報量を下げる調整を慎重に行った。

SEとの関係にも気を使っている。例えばBGMは常にプレーヤー周辺で鳴り、手前にあるたき火の音はプレーヤーの前に、画面奥の滝の落ちる音が後ろから聞こえる。「聞こえるべき音が耳に入るように、音の空間を整理して没入感を妨げないように気を使った」とサウンドデザイナーの同社企画制作部、藤川浩光さんは説明する。
ゲーム全体のディレクターを務めた同社企画制作部の京極あやさんは「(あつ森は)新しい世代の『どうぶつの森』を目指した」と話す。
もともと「インターネットを使わないオンラインゲーム」だったどうぶつの森シリーズに、「ともだちの島」に遊びに行ける機能などネットを活用した遊び方を本格的に導入した。このため導入部で徐々に世界観や遊び方に慣れていくような構成を意図的に整え、初心者に遊び方を紹介する仕組みをさりげなく組み込んだ。
その1つが「たぬきマイレージ」。マイレージをためるという身近な行為を通じて、どうぶつの森の遊び方や遊びのきっかけをプレーヤーに紹介する狙いがある。
増えた要素は見つけられるように、でも目立ち過ぎないように配置する――。「なんでもできる」「なんにもしなくていい」というあつ森のゆるい世界観は、開発者チームの慎重な作業の積み重ねで作られている。世界的な大ヒットは「丁寧な仕事」の土台に、新規ユーザーを取り込む仕掛けを組み込んで得られた必然の成果と言えそうだ。
(日経クロステック副編集長)
[日経MJ2020年10月8日付]
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