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石油消費減、衝撃のBP分析 伸びる水素、原発頼みも

Earth新潮流

石油需要のピークは過ぎたかもしれない――。英石油大手BPが9月14日に公表したエネルギーの長期分析は石油関係者に衝撃を与えた。しかし、重要なのはBPが石油の減少をどのようなエネルギーで補うと考えているかだ。報告書からは、次のエネルギービジネスの焦点が見えてくる。

2050年までのエネルギー長期分析を3つのシナリオで示した=AP

BPが毎年公表する長期分析「エネルギー見通し」は、足元のエネルギー動向を分析する「BP統計」とともに、エネルギー関係者が信頼を寄せている。

最新版の2020年版は、50年までの長期予測を3つのシナリオで示した。環境対策や技術開発が最近の傾向に沿って進む「標準(BAU)」ケース、温暖化対策が進む「急速」ケース、対策がさらに加速する「ネットゼロ」ケースだ。

急速ケースでは50年までにエネルギー起源の温暖化ガスは70%、ネットゼロは95%減る見通しだ。急速ケースは地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が掲げる、温度上昇を産業革命前と比べて2度以内に、ネットゼロは1.5度以内に抑えるために必要な削減量でもある。

急速とネットゼロのケースでは、新型コロナウイルスの感染拡大によって落ち込んだ石油消費は、コロナ危機前の水準に戻ることなく、そのまま減少に向かう。ネットゼロでは18年の日量9700万バレルから、50年には2400万バレルと4分の1の水準に縮む。

報告書をとりまとめたBPのスペンサー・デール・グループチーフエコノミストは発表の席上、在宅勤務の拡大などコロナ危機をきっかけとする生活・行動様式の変容は「危機が収まっても続く」と指摘した。

◇ ◆ ◇

温暖化問題への関心の高まりから、石油需要がいずれ減少に転じる「需要ピーク」論がここ数年議論されてきたが、すでに天井を打った可能性を明言したのはメジャー(国際石油資本)では初めてだ。

天然ガスは石油や石炭より耐久力があり、標準ケースでは50年まで消費の右肩上がりが続く。しかし、急速のケースでは30年代半ばに、ネットゼロでは20年代のうちに減少に転じる。

新興国・途上国の成長に伴い、エネルギー消費は標準ケースで50年に18年比25%、急速とネットゼロでも10%増大する。化石燃料が減少する一方でこの需要をどうまかなうのかが重要だ。

前提となるのが化石燃料を直接、燃焼させるのではなく、エネルギーを電気の形で消費する「電化」の進展だ。最終エネルギー消費に占める電力の比率は18年で22%。急速とネットゼロではこれがそれぞれ45%、52%に上昇し、標準でも34%に高まる。

そのための主役が、太陽光や風力などの再生可能エネルギーであるのは言うまでもない。報告書によれば、1次エネルギーに占める再生エネ(水力除く)の比率は18年の5%から、急速シナリオで50年に40%、ネットゼロでは60%まで高まる見通しになる。

ここで注意が必要だ。急速とネットゼロのケースでは、再生エネのほかに2つのエネルギーの拡大が書き込まれているからだ。

ひとつは水素だ。デール氏は説明会で「過去の長期見通しと比べて、今回は水素とバイオ燃料の役割を深く考えた。エネルギー転換に水素が果たす役割を認識することが重要だ」と語った。

報告書では最終エネルギー消費で今はほぼゼロの水素が、急速では50年に7%、ネットゼロでは16%に増える見立てになっている。

脱炭素燃料としての水素は、太陽光や風力などの再生エネで発電する電気で水を電気分解してつくる「グリーン水素」と、石油や石炭などの炭化水素化合物から水素を取り出し、二酸化炭素(CO2)は地中に戻したり、工業原料などに再利用したりするCCUS(回収・利用・貯留)技術と組み合わせる「ブルー水素」がある。

ネットゼロでは50年にグリーン水素とブルー水素がほぼ同量必要になる。デール氏は「ブルー水素は足元ではグリーン水素よりもコスト競争力があり、グリーンを補完する」という。

再生エネだけですべての水素をまかなうには、太陽光や風力の導入をさらに加速する必要があるが、ブルーを使えば軽減できる。

石油需要の単純な減少だけでなく、水素の原料として化石燃料に注目する必要があるわけだ。

◇ ◆ ◇

もうひとつが原子力発電の役割だ。原発も温暖化ガスを出さない電源だが、東京電力福島第1原発の事故以降、世界規模で逆風にさらされている。

しかし、報告書によれば原発の発電量は急速のケースで50年までに2倍に増える。原発建設の最盛期だった1980年代と同じペースで新増設する計算だ。ネットゼロケースでは2.6倍に増え、さらに建設の速度を上げる必要がある。

この数字は現実的だろうか。しかし、パリ協定を実現するには、再生エネだけでなく、化石燃料ベースの水素や原発をあてにせざるを得ないのだ。

デール氏自身も「再生エネには明るい未来があるが、急速やネットゼロでは(エネルギー転換に)毎年5000億~7500億ドル(52兆5千億~73兆5千億円)もの投資が要る。それも多くは新興国・途上国が必要とする。この投資意欲(が続くか)が制約のひとつだ」と懸念を示す。

石油需要の減少という衝撃的なシナリオは、エネルギー転換から目を背けないBPの強い決意を示す一方、パリ協定実現の高いハードルを改めて明らかにした。

(編集委員 松尾博文)

[日経産業新聞2020年10月2日付]

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