EVや水素 環境政策今こそ 地銀活用で資金供給も
Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

日経産業新聞
コラム(ビジネス)
2020/9/29付
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9月16日に菅義偉内閣が発足した。新政権がまず取り組むのは、コロナ対策と落ち込んだ経済の回復だろう。コロナ禍からの経済復興において、いま世界的に注目されているのが気候変動などの環境対策でけん引するグリーン・リカバリーだ。2008年からの金融危機では米国のグリーンニューディールが脚光を浴び、日本でも当時の与野党が気候変動対策を競ったことを思い出す。

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フランスなどは経済復興策として電気自動車の普及に拍車をかけている(2017年、パリ)

フランスなどは経済復興策として電気自動車の普及に拍車をかけている(2017年、パリ)

今回、先陣を切ったのは欧州連合(EU)だ。EUのフォンデアライエン委員長は環境対策による経済成長と競争力強化を掲げ、19年12月に就任したばかり。さっそくビルの省エネ、電気自動車(EV)販売や充電設備、循環経済などを盛り込んだ7500億ユーロのネクストジェネレーションEUを5月に発表した。

またドイツは500億ユーロ規模の政策「将来のパッケージ」で、持続可能な農業、EV販売や充電設備、水素インフラ、鉄道近代化といった二酸化炭素(CO2)削減への投資で経済回復を目指す。フランスはEV支援などでドイツなどと同じだが、経営が悪化した企業を支援する際に環境問題に対する取り組みを条件づけた点が注目だ。

例えば、航空大手エールフランスKLMに対して70億ユーロの緊急支援策を打っているが、30年までに排出量の半減やバイオ燃料の2%混入、高速鉄道に切り替え可能な近距離便の廃止などを求めた。ドイツや英国も航空会社を支援した際に環境条項はなかったから、マクロン仏大統領の面目躍如といってよいだろう。

カナダのトルドー首相も環境の取り組みには熱心だ。企業を緊急支援するにあたり、カナダの気候変動目標に合致した経営や、国際組織の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)ガイドラインに従った情報開示を条件としている。

さらに英国は住宅の省エネやCO2回収、韓国はビルの省エネ化やEV、中国がEV、インドも植林などを相次いで打ち出している。それぞれ特色ある政策だが、即効性を重視した交通や住宅の省エネ、水素などのイノベーション、そしてデジタル技術活用、と方向性は似ている。

英国を本拠地とするコンサルティング会社のビビッドエコノミクスによれば、世界全体で11.8兆ドルのコロナ対策が行われ、そのうち3割は環境関連だという。しかし、政策全体を評価すると、仏英独などはグリーン化(環境)に貢献するが、米国や中国、インド、インドネシア、それに日本などについては環境面で悪化につながると指摘している。

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菅政権は、前政権で発表ずみの「骨太」(経済財政運営の基本方針)を継承するだろう。環境と成長の好循環などを掲げるものの、デジタル化や防災・減災対策などが中心だ。もう一歩、グリーン・リカバリーに踏み込むことが期待される。

例えば、フランスやカナダの環境条項付金融支援は参考になりそうだ。斬新にみえるが、日銀は10年に金融危機からの回復にあたって環境対策など成長に欠かせない取り組みを対象として資金協供給した実績もある。今であれば、地球温暖化の国際枠組み「パリ協定」における産業革命からの気温上昇を2度未満に抑える目標を前提とした企業戦略が資金供給の条件になるだろう。

経済復興では雇用や経済規模の拡大、そして即効性が重視される。国際エネルギー機関も「持続可能な経済復興」を提案した。再生可能エネルギーによる発電はグローバルな雇用創出が大きいが、地元で雇用を創出して経済を潤す効果は省エネの方が大きい。既存の設備や建物、住宅の省エネはお金が回り出すのが早いからだ。

低炭素化と成長を両立するカギはイノベーションだ。イノベーションに必要なのは継続性であり、経済危機でも研究開発を止めてはいけない。蓄電池や水素、CO2を回収して地下に貯留するCCS、それにデジタル化は欠かせない技術であり、企業も成長のチャンスと狙う。

菅政権も重視するデジタル化だが、デジタル化は手段であり、それ自体で経済を回復したり、CO2を減らしたりするものではない。手段が景気刺激になると目的化してしまうのは本末転倒だ。デジタル化の掛け声に踊るのではなく、使いこなすためには日本全体のデジタルリテラシーの底上げも必要だろう。

また、日本で忘れてはならないのが財政赤字の制約があることだ。2度の補正予算により57兆円もの国債が追加発行され、財政の健全化は遅れる。EUのグリーンディールでは排出量取引強化による収入増が見込まれるが、日本に特段の財源対策はない。

排出量規制、削減量に応じた補助金、排出量取引といった市場のメカニズムを活用して小さな政府でもできる工夫が必要だろう。コロナ禍ではわずか3か月の間に23兆円の資金を供給するなど銀行の役割は大きかった。菅政権は構造不況に苦しむ地銀の再編を目指すようだが、地域経済を支えるセーフティーネットの役割も考えて、省エネ補助金の実施を任せるような形で地銀の活用も考えられるだろう。

グリーン・リカバリーは山積する日本の長期的な課題の対策としてカギになるかもしれない。さらに11月の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)では経済復興や気候変動対策が議論されるだろう。新政権には、成長につながる後悔しない経済対策が期待される。

[日経産業新聞2020年9月29日付]

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