多様性を評価、包含するマーケティング 「無意識の偏見」への意識が重要
奔流eビジネス (スクラムベンチャーズ マーケティングVP 三浦茜氏)
「ダイバーシティ」に加えて「インクルージョン」という言葉をよく耳にするようになった。多様性を意味するダイバーシティは国籍、人種、性別、年齢、宗教、障害、体形、食習慣などの違いを認めようという意味で使われることが多い。インクルージョンは直訳すると「包括・包含」で、多様性を積極的に評価し、企業活動に取り込んでいくことを意味する。

組織づくりにおいては以前から意識されていたキーワードだが、最近重要性を増しているのが「インクルーシブ・マーケティング」だ。「ブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命は大切だ)」を掲げる人種差別への抗議運動を経て、より意識が高まっている。インスタグラムが「ダイバーシティ&インクルージョンディレクター」を募集して話題になった。
インクルーシブ・マーケティングの典型例としては、人気歌手のリアーナが2017年に創業したコスメブランド「フェンティビューティー」がある。商品ラインアップがインクルージョンで、ファンデーションのカラーバリエーションは50にものぼる。
女性用インナーウエアブランドのエアリーも早くからインクルージョンに取り組む。多くの企業に先駆け、ボディーポジティブ(画一的な美の基準を解放し、外見や体形の多様性を受け入れるムーブメント)を展開。14年から多様な体形・人種のモデルを起用し、モデルの写真に編集を一切加えていない。

「バービー人形」で知られる米玩具大手のマテルも肌の色や体形などに関して、ダイバーシティを意識した商品展開をしてきた。19年には車椅子を使うバービーと、取り外しができる義足を持つバービーが仲間に加わった。義足タイプのバービーは生まれつき左腕がなくて、義手を使っている活動家とコラボ。車椅子タイプはUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)と共同設計した。
「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」を意識することもインクルーシブ・マーケティングの重要なポイントだ。「化粧をするのは女性」といった思い込みが典型で、こういったステレオタイプは無意識に多様性を否定している。化粧品ブランドGlossier(グロッシアー)の公式インスタグラムはこの点を意識し、男性ユーザーが紹介されることもある。
マテルはアンコンシャス・バイアスを脱する取り組みとして、ある動画広告を15年に公開した。女の子たちが大学教授、獣医、サッカーのコーチなど、それぞれがなりたい職業にふんし、大人相手に業務をこなしていく動画だ。一般的には男性の職業というイメージがあるが、この動画を見るとそれがステレオタイプであることに気づく。
筆者は子供を産んだことで、性別についてバイアスを感じるようになった。相変わらず男の子の服は青、女の子はピンクなのだ。米国ではジェンダーレス子供服のブランドも増えてきたが、日常では性別で分けられることも多い。マーケティングや企業運営という側面だけでなく、一人の人間として、母として、もう少し積極的にインクルージョンを意識していきたい。
[日経MJ2020年9月25日付]