強まる成長への説明責任
SmartTimes セントリス・コーポレートアドバイザリー代表取締役 谷間真氏

2020/9/16付
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2022年4月、東京証券取引所の市場区分が再編される。これに先立ち、20年11月以降にマザーズに新規上場申請する会社は「事業計画及び成長可能性に関する事項」を上場日だけでなく、年に1回以上継続的に開示することになった。今までの新規株式公開(IPO)でも「成長可能性説明資料」を開示していたが、今回の改正はIPOまでの進行に大きな影響を与える可能性がある。

1971年生まれ。京大卒。公認会計士。2002年にIPO支援コンサルタントとして独立。07年から上場企業の経営者を務め、11年からシンガポールでも活動。13年にIPOビジネス再開

1971年生まれ。京大卒。公認会計士。2002年にIPO支援コンサルタントとして独立。07年から上場企業の経営者を務め、11年からシンガポールでも活動。13年にIPOビジネス再開

まず上場審査とそのタイミングへの影響だ。これまで取引所は、高い成長可能性について主幹事証券会社の判断を前提として上場審査し、成長可能性説明資料は上場申請書類にも含まれていなかった。しかし、事業計画および成長可能性に関する事項は、取引所の審査対象と明記されているため、主幹事証券会社でも重点的に審査が行われる可能性が高い。成長可能性説明資料と比べて作成時期が3~4カ月前倒しとなるはずだ。さらに事業計画として、成長戦略、経営指標(KPI)の開示が求められており、必要に応じて利益計画も記載が必要になる。

二つ目はバリュエーション(評価)手法への影響だ。これまでもマザーズでは、実績は不十分でも将来性の高いベンチャー企業に対し、高いバリュエーションを与えたIPOが実施されてきた。このようなバリュエーションは、中期利益計画やKPIの伸び率などを根拠としているが、その内容については開示されていない。

今回の改正で、将来数値を根拠としたバリュエーションを行う条件として、「事業計画及び成長可能性に関する事項」を開示することが要請される可能性もある。逆に高バリュエーションを獲得するために積極的に中期利益計画を開示する戦術も考えられる。この場合、事業計画がどのように審査されるか興味のあるところだ。

三つ目は機関投資家向けロードショー(説明会)への影響だ。これまで新規上場企業は機関投資家に対し、目論見書の記載の範囲内で作成した説明資料に基づいてプレゼンテーションし、その反応によって株価が決まってきた。この説明資料が成長可能性説明資料として上場日に開示される。

一方で、上場日に事業計画が開示される場合、説明資料は目論見書の記載の範囲内となるため、定性的な情報は盛り込めたとしても、上場日に開示される将来数値をどこで開示するのか論点になる。全体として今回の改正は、健全なIPOにとって望ましいと私は考えている。

ただ、11月から施行される2カ月前になっても具体的な内容が見えてこない。IPO直前の審査期間はベンチャー企業のストレスが最も高まる時期だ。主幹事証券会社は、上場審査とバリュエーション手法を総合的に検討し、速やかに具体的な取り扱いを明らかにしてほしい。

[日経産業新聞2020年9月16日付]

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