アップル、課金・広告で波紋 影響、株式市場通じ世界へ?
先読みウェブワールド (藤村厚夫氏)
8月には時価総額が2兆ドル(約212兆円)を突破し、米国企業として最高記録を作ったばかりのアップル。その「最強企業」が2つの方向から揺さぶられている。
まず、先に耳目を集めたのが「フォートナイトの変」だ。人気のオンラインゲーム、フォートナイトを運営する米エピック・ゲームズがアップルを提訴。アップルの基本ソフト(OS)上で稼働するフォートナイトから得る課金収入のうち、30%を徴収されていることに反旗を翻した。
これを機に米フェイスブックがあからさまにアップル批判を強めたり、大手メディアなどもアップルに申し入れをしたりと、反アップルの動きが急速に強まった。米議会でも利用企業などに対するルールの押しつけなどが「反競争的」だと問題視されていて、最高経営責任者(CEO)のティム・クック氏が7月、公聴会への出席を求められた。
ところで、このアプリ内課金をめぐるバトルに匹敵するほどの衝撃を、アップルが引き起こすかもしれない。この秋にも発表される新型iPhoneとともに提供される新OSが、利用者に「追跡」の許可を求める機能を搭載するというのだ。この追跡機能は「行動ターゲティング」などとも呼ばれ、スマホの利用履歴から興味・関心を分析し、それに即した広告を表示するためのものだ。
この種の利用者追跡行為は、プライバシー情報の収集と位置づけるのが世界の法制度のすう勢となっている。GDPR(EU一般データ保護規則)などはその代表例だ。アップルも以前から、プライバシー保護の姿勢を明らかにしており、新OSでも保護策を一段と強めることを発表していた。利用者に対する追跡を原則として禁止し、追跡するには利用者に合意を求める仕様にするというのだ。

当然ながら追跡を認める利用者は激減し、表示される広告の精度は悪くなる。フェイスブックは追跡が認められなくなれば広告価値が半減する可能性があると、広告主やパートナーに警告した。広告市場を二分しているフェイスブックと米グーグルは、いずれも行動ターゲティングの技術で高収益を築いてきた。仕様変更で減収は避けられない。
問題はグーグルやフェイスブックの広告配信の仕組みを利用して広告収入を得る大小さまざまなメディアにも、影響が及ぶ可能性があることだ。例えば英ニュースサイト大手「メール・オンライン」はアップルのアプリ市場からの撤退を検討中と表明。広告に頼る業界は騒然としている。
利用者のプライバシー保護姿勢の強化は、行動ターゲティングで荒稼ぎしてきたフェイスブック、グーグルへの痛撃だったはずだが、むしろメディアなどから批判や離反を招いてしまった。アップルはこの事態に3日、新OSでの仕様変更を来年まで先送りすると公表した。
妥協を嫌い、常に強硬姿勢を貫いてきたアップルだが、課金と広告という二大市場で揺さぶられる異例の状況だ。アップルは株式市場の「鯨」だけに、展開次第では米国から世界の株式市場に動揺が広がり、世界経済にも影響を及ぼすだろう。
[日経MJ2020年9月13日付]