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大学を世界基準に変える 「混ぜれば強い」という発想

一橋大学教授 太田浩

大学が国際化するには、多様性と柔軟性を自ら示すことが不可欠だ イラスト・よしおかじゅんいち

2008年、留学生30万人計画は日本の大学の国際化を推進し、少子高齢化による人材不足の解決に寄与する目的で始まった。海外から優秀な留学生を誘致し、大学で教育を受けさせ、卒業後は日本企業への就職を支援し、日本の経済と社会を支える高度人材として活躍してもらうことを企図した。

出稼ぎ留学生増加

19年には留学生数が31万を超え、数値目標は一年前倒しで達成された。しかし当初の目的を達成できたとは言い難い。まず増加した留学生の過半数は大学ではなく、日本語学校・専門学校の在学者だ。留学生総数に占めるその割合は、11年には31%だったが、18年には52%と大幅に増加した。一方で、同期間の大学・短大に在学する留学生の割合は全体の68%から47%に減少した。

新 移民時代』(西日本新聞社編、明石書店・17年)は、(1)就労目的の出稼ぎ留学生、(2)留学生受け入れで定員充足を図る専門学校や営利優先の日本語学校、(3)単純労働者の不足を留学生のアルバイトで解決しようとする企業、これら三者の思惑と利害が結びついた問題を、九州を中心に現場の丹念な取材で描いた。増加した多様な外国人に対し、共生する隣人と捉える視点を欠いていることが、搾取を招き、支援策の遅れを招くとしている。このまま移民がいないふりを続ければ、早晩、外国人が来てくれなくなると警告する。

同じ九州にありながら、立命館アジア太平洋大学(APU)では異なった留学生の姿が見えてくる。APUは学生数の半分にあたる2700人を、100近い国々から受け入れる。今年開学20周年を迎えるが、当初からあえて日本の既成概念から外れた大学を目指している。教員も半数は外国人で、授業科目は日本語と英語で開講されている。多様性の向上が叫ばれて久しいが、全学で実現できているところは少ない。

多様性は国籍や文化、宗教、性別といった属性の異なる人たちを意識的に混ぜることで生まれるが「混ぜると強くなる」という出口学長の強い信念の下、世界基準の大学を目指していることが『ここにしかない大学』(出口治明著、日経BP・20年)から分かる。秋入学や英語基準での学力審査を導入し、世界中から優れた学生を集めるAPUでは留学生が日本人学生に危機感と刺激を与えながら大学を牽引(けんいん)し、グローバル化時代における日本の大学の一つのありかたを示している。

同様の取り組みとして、20年4月に京都先端科学大学が新設した工学部に注目したい。学生の半数は留学生で基礎科目は日英両言語で開講し、3年生以上の授業は英語で行うという。日本電産会長兼最高経営責任者(CEO)の永守重信氏が18年に理事長に就任して以来、偏差値偏重教育の打破、とがった人材の養成、即戦力の育成などを掲げ、大胆な大学改革が進められている。永守氏、出口氏ともに企業の創業者としての成功を基盤に、目指すべき大学像には共通点が多い。

脱ムラ社会が必要

83年に始まった留学生10万人計画以来、なぜ東大を始め歴史のあるトップ大学では、留学生増など表面的な国際性を高められても、大学を本質的に転換させる国際化ができないのか。『大学はもう死んでいる?』(苅谷剛彦・吉見俊哉著、集英社新書・20年)は、変化を避けるムラ社会としての大学の内実と、毅然とした態度をとれず中途半端な国の政策の問題を、現役の東大教員と元東大、現オックスフォード大学の教員が解説する。限られた成功例として、専任教員に占める外国出身者の比率が高いAPU、国際教養大学、国際基督教大学などを挙げ、知的共同体では意図的に多様性を作り出すことが最も重要だと指摘する。

日本の高等教育のグローバル化対応には、学生、教職員双方で多様性を高めることが喫緊の課題だ。そして外国人を一時の助っ人や便利屋ではなく、共同体の一員として受け入れられるか、その覚悟と本気度が日本人に問われている。

[日本経済新聞朝刊 2020年9月12日付]

新 移民時代――外国人労働者と共に生きる社会へ

著者 : 西日本新聞社
出版 : 明石書店
価格 : 1760 円(税込み)

大学はもう死んでいる? トップユニバーシティーからの問題提起 (集英社新書)

著者 : 苅谷 剛彦
出版 : 集英社
価格 : 990 円(税込み)

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