広がる「サステナブルフード」 ネスレやコメダも
Earth新潮流 日経ESG編集部 藤田香

2020/9/11付
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喫茶店チェーンのコメダ珈琲店は7月、東京・銀座の歌舞伎座近くに「植物食」をうたうカフェをオープンした。店名は「KOMEDA is □」。□の中には「おいしい」や「健康」といった単語を客が自由に入れて楽しめるようにしている。読み方は「コメダイズ(米・大豆)」。文字通り、米や大豆など植物だけを食材に使うビーガン・カフェだ。

コメダ珈琲店が新店で出す「べっぴんバーガー」は大豆ミートを使う

コメダ珈琲店が新店で出す「べっぴんバーガー」は大豆ミートを使う

メニューには、肉のような味や食感を大豆で再現した「大豆ミート」のバーガーや、途上国の生産者に配慮して公正な価格で取引したフェアトレードのコーヒーなどが並んでいる。

コメダの臼井興胤社長は「これまで安心安全や健康志向のメニュー作りに取り組んできたが、次に来る波が地球環境への配慮だと考えて、出店に踏み切った」と話す。どこかレトロな雰囲気が売りのコメダが出した新店舗は、いま世界で注目を集めている「植物食」「代替肉」ブームを象徴する店でもある。

世界人口は2050年に97億人になると予想され、食料安全保障の問題が深刻になりつつある。膨らむ人口に食料を供給し続けるには、今まで以上に耕地や家畜が必要だ。家畜の飼育は土地や水を大量に使用し、ゲップなどで温暖化ガス排出量が大きいことも知られている。そこで環境負荷を減らしながら生産する「サステナブル(持続可能な)フード」の開発が求められている。

解決策の1つが環境負荷を抑えて生産した有機食品や、環境や人権への配慮を証明した認証食品、そして肉を植物に置き換えた「代替肉」「大豆ミート」である。

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サステナブルフードの市場は、ここ数年で急拡大している。国際有機農業運動連盟(IFOAM)によると、世界の有機食品の売り上げは02年の230億ドル(約2兆5300億円)から、16年には897億ドル(約9兆8000億円)と約4倍に成長した。

代替肉市場も急激に伸びている。米国ではスタートアップのビヨンド・ミートやインポッシブル・フーズの代替肉が大手外食チェーンに採用され、ブームに火が付いた。食品最大手、スイスのネスレも代替肉市場に参入した。同社は「代替肉バーガーを含むベジタリアンおよび植物由来の食品は、昨年2ケタの成長を遂げ、約2億スイスフラン(約232億円)の売り上げに達した。今年上半期も40%伸びた」と回答し、成長著しい事業になっていることを明らかにした。

日本の食品メーカーも相次いで参入している。日清食品グループは16年から本格的に植物由来の代替肉をインスタント食品に使い始めた。20年8月時点で12製品に採用。「環境配慮がかっこいいと考えるZ世代やα世代の若い世代にこうした食材は刺さるはず」といい、市場拡大を見込む。

大塚食品は「ゼロミート」というブランド名で代替肉を18年から販売している。脂肪酸の含有量を本物の肉に近づけ、植物油脂や香辛料などを加えて、大豆で肉の味を再現した。

食肉のプロである丸大食品や伊藤ハム、日本ハムも代替肉市場に手を伸ばしている。日本ハムは3月から「ナチュミート」というブランドでハムやソーセージ、ハンバーグなどを販売している。ハムでは様々な種類の大豆を試し、他の原料との配合を調節して大豆臭を消した。ソーセージではあらびき感を出すためコンニャクを使っている。

矢野経済研究所の市場予測によると、20年の世界の代替肉(植物由来肉・培養肉)の市場は2572億6300万円。30年に1兆8723億円にまで拡大する見通しだ。

サステナブルフードは投資家の関心も集めている。200以上の投資家が参加し、運用資産で20兆ドル(2200兆円)を超える投資家ネットワーク「ファーム・アニマル・インベストメント・リスク・アンド・リターン(FAIRR)」は、畜産や養殖関連の60社について持続可能性を評価、格付けしている。

評価するのは、温暖化ガス排出量や抗生物質の使用など8つの「リスク」と持続可能なタンパク質の創出という「機会」だ。19年の格付けでは、日本ハム、プリマハム日本水産の日本企業3社を含む大半の企業が厳しい評価を受けた一方、米食肉大手のタイソン・フーズなど代替肉に積極的に取り組む企業がスコアを伸ばした。欧米の投資家が代替タンパクの開発に注目している様子がうかがえる。

一方、食品について原材料の生産から加工、流通に至るサプライチェーン全体で環境や人権に配慮していることを証明するため、ブロックチェーン技術で来歴の透明化に取り組む活動も始まった。情報を改ざんしにくいブロックチェーンの特長を生かす。

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米IBMはブロックチェーンで食の信頼を担保するプラットフォーム「IBMフードトラスト」を18年に立ち上げた。8月現在、米ウォルマートやネスレなど食品企業や小売り300社近くが参加。ウォルマートは葉物野菜のサプライヤーに、取引条件として、このブロックチェーンへのデータ入力を要請している。

ネスレのコーヒー飲料は米IBMのブロックチェーン技術で管理した生産履歴を伝える

ネスレのコーヒー飲料は米IBMのブロックチェーン技術で管理した生産履歴を伝える

仏カルフールはプライベートブランド(PB)の20%にQRコードを付けて、消費者がスマートフォンで読み取ると生産履歴を追跡できるようにしている。ネスレや米スターバックスも、ブロックチェーン技術でコーヒー飲料の来歴を開示する取り組みを始めた。

日本でも技術導入が始まっている。日本IBMは、東京湾で環境に配慮したスズキ漁を営む海光物産(千葉県船橋市)と共同で、海産物の来歴を証明する「Ocean to Table(海から食卓へ)」プロジェクトに乗り出した。

レストランの魚料理のメニューに付けたQRコードで漁獲から加工、出荷の情報を追跡できる仕組みを作る。消費者は情報を閲覧して、生産者の努力や品質の裏付けを確認できる。食のトレーサビリティの透明化が、サステナブルフードに新たな付加価値を生む時代になってきた。

[日経産業新聞2020年9月11日付]

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