ベンチャー発の家庭用IoT製品 中国の工場と連携がカギ
先読みウェブワールド (山田剛良氏)
あらゆるモノがネットにつながる「IoT」で、家庭用製品が続々登場している。これまでアイデアは良いのに、ハードウエアの生産でつまずく企業が多かった。中国の工場と上手に付き合うことでこれをクリアした、国内スタートアップ2社を紹介したい。

1つ目はLOAD&ROAD(東京・千代田)。8月29日に発売した「teploティーポット」は湯の温度や抽出時間を調節し、茶葉の種類や持ち主の体調に最適化したお茶を自動でいれる。専用茶葉も売るが、ユーザーが自分で買ってきたお茶をいれることも可能だ。「本当のおいしさを体感できる製品、サービスに育てたい」と河野辺和典社長は話す。
teploは茶葉を収める「インフューザー」と呼ばれる部品がポット内で回転。茶葉をお湯に蒸らしたりする時間を細かく制御できる。スマホの専用アプリと連携し、茶葉の種類ごとに最適な湯温や蒸らし、浸し時間を設定できる。
同社は2015年の創業で、まずIoT制御でお茶をいれるボトル型の製品を発表した。16年にクラウドファンディング(CF)で7万ドルの資金を集めたものの、量産化の段階で失敗。開発し直したのが今回の製品だ。
挫折から学んだのが、中国・深圳の生産工場との付き合い方だ。当時は勝手が分からず、意思疎通がうまくいかなかった。今回は日系企業にルーツを持つ工場を選択。日本語が通じる担当者が窓口にいて、こだわりを細かく反映させて量産できたという。
2つ目はアトムテック(横浜市)。1月にウェブ監視カメラ「ATOM Cam」をCF上で発表し、2335人の支持と1300万円の資金を集めた。5月には一般向けの販売を開始。同等の性能を持つ製品は1台1万円以上することが多いが、2500円という低価格を実現し、順調に出荷を伸ばしている。

安さの秘密はカメラ本体に既存の製品を流用した点にある。米国企業が中国の工場に発注したものだ。中国企業が生産する既存カメラの中から性能が十分で量産実績があり「流用可能な製品」を片っ端から探し、今回採用した工場にたどり着いた。
一方で制御ソフトやスマホアプリ、サーバー側のソフトウエアは完全な内製だ。クラウドのサーバーも日本に置く。同社の青山純社長は「プライバシーやセキュリティーに関わる製品だから『安心感』も重要な価値」と話す。
ソフトウエアの改良にも熱心。7月には店舗向けに、このカメラで来店者数を数えるサービスのベータ版の提供を始めた。正式発売時には月額500円程度で利用できるようにする。
ベンチャー企業がホームIoT製品に取り組む場合、ハードの開発でつまずくことが多い。ソフトと違って簡単に変更できず、設計や生産に一定のノウハウが必要だからだ。中国などの生産工場をコントロールして量産品質を保つのも大変で、リソースが少ないスタートアップには負担が大きかった。紹介した2社はこうした障害をそれぞれの工夫で乗り越え、高い品質の量産製品までたどり着いている。後に続く企業に期待したい。
[日経MJ2020年9月7日付]