素朴な7島 自転車に優しく 安芸灘とびしま海道(広島県呉市~愛媛県今治市)
おもてなし 魅せどころ

日経MJ
広島
2020/8/31付
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NIKKEI MJ

広島でサイクリングといえば「しまなみ海道」が全国でも有名だが、もう一つ、隠れた名所がある。広島県呉市とその南東にある7つの島をつなぐ「安芸灘とびしま海道」だ。穏やかな海、山、橋の上から見える島々――。瀬戸内海ならではの景色が疲れを忘れさせる。7島が橋でつながったのは2008年。観光地として未完成ゆえののどかさ、秘境感が大きな魅力だ。

サイクリストらの間で「裏しまなみ海道」と呼ばれることもある(下蒲刈島と上蒲刈島を結ぶ蒲刈大橋)

サイクリストらの間で「裏しまなみ海道」と呼ばれることもある(下蒲刈島と上蒲刈島を結ぶ蒲刈大橋)

とびしま海道は呉市から下蒲刈島にかかり、愛媛県今治市の岡村島まで続く。往復約70キロメートルとしまなみ海道(同約140キロメートル)より短く、初心者でも日帰りで走破しやすい。江戸~昭和初期の建物が残る「御手洗(みたらい)地区」や展望台など見どころも豊富だ。

広島市から車で1時間と好アクセスながら、知名度は県内でも低い。しまなみの陰に埋もれてきた面があり、観光客は多くなく、島々には静かで素朴な雰囲気が漂う。

来島者に話しかける地元住民も多い。江戸時代、下蒲刈島では朝鮮通信使を接待し、大崎下島の御手洗港は中継貿易港として栄えた。一帯には客人をもてなす気質が残っているという。

「みなさん、すれ違っても『こんにちは』とあいさつしてくれる。観光というより島の生活を感じられた」。8月に1泊2日でサイクリングを満喫した兵庫県宝塚市の作曲家、近藤浩平さん(55)は話す。

呉市など行政は16年以降、サイクリングの名所として外国人観光客にとびしまをアピールしてきた。来島者は順調に増えてきたが、新型コロナウイルスの影響で海外からの誘客は一時凍結することに。

現在は中国地方や広島県の旅行会社へツアー企画を呼びかけるなど、近場の客に狙いを定める。知名度が低かった分、開拓の余地は大きい。海水浴場、キャンプ場、コテージ、文化施設などもあり、自転車以外のコンテンツも多彩だ。

のどかな島暮らしを武器に、首都圏などからの移住を呼びかける動きもある。呉市の地域おこし協力隊、角幡彩さん(28)は4月、下蒲刈島にシェアハウスを開業した。入居期間は1カ月~1年。「移住を決める前に島暮らしを『お試し』できる場所」(角幡さん)という。コロナで広がったテレワークも追い風になりそうだ。

島々の人口はもともと減っていたが、橋が開通したことで本土との行き来が容易になり、流出が加速した経緯がある。一帯の活力を保つために観光に期待がかかる。ただ観光客が増えすぎると特長だった素朴さが失われ、しまなみとの違いが分からなくなってしまう。住民や関係者が抱えるジレンマだ。

(広島支局 河野真央)

[日経MJ 観光・インバウンド面 2020年8月31日付]

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