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企業活動「自然資本」の観点を 国連機関が提唱

Earth新潮流 日本総合研究所理事 足達英一郎氏

7月31日、日本で約290の企業・機関(同27日現在)で構成する団体、TCFDコンソーシアムが「TCFDガイダンス2.0」を公表した。TCFDは「気候関連財務情報開示タスクフォース」と訳される国際的な組織だ。金融機関や投資家が企業の気候関連のリスクと機会を評価できるよう、情報開示の枠組みを2017年6月に提言として発表した。

TCFDは気候変動が企業業績や財務に及ぼす影響の分析・開示を求める(19年10月、都内)

日本政府も「環境と成長の好循環」の加速に向けて、TCFD提言を実務に定着するための国際的な議論をリードするとしている。コンソーシアムは18年12月に提言の解説書を公表し、今回は業種別ガイダンスや日本企業の開示事例を加え、改訂版を発行したのだ。

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社会と地球の持続可能性を考慮した企業の情報開示の枠組みは、さらに進化しつつある。国連機関などは7月23日、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)を発足させた。

TCFDが「企業の気候関連のリスクと機会を適切に評価できる」ことを目的とするのに対し、TNFDは「企業の自然資本と生態系サービスに関連するリスクと機会を適切に評価できるようにする」ことを目指す。

「自然資本」とは「人々に便益のフローを与える動植物、大気、水、土壌、鉱物のような再生可能あるいは再生不可能な天然資源の蓄積」を指す。生態系サービスは簡単にいえば「自然の恵み」を意味している。

企業活動は工業用水や鉱物、農作物を使ったり、土地を改良したりして発展を目指す。こうした自然と密接に関わる存在の企業について、「自然資本」という観点から評価していく流れが起きている。

自然の恵みとは食料や燃料、木材、様々な原材料のほか、森林の水源など、人々に精神的な潤いや安らぎを与えることまで幅広い事柄を含む。

関連する企業活動では農業や畜産業、製薬、食品や住宅のメーカー、外食産業、ホテル・観光業などを思い浮かべることができる。ただ、自然資本の代表的な要素に「大気」「水」があるので、あらゆる企業が自然の恵みと関連していることも理解できる。

現状のままでは、世の中の自然資本が劣化していくことが懸念されている。温暖化のような気候変動は自然資本を毀損する大きな要因であり、生物多様性が失われることも自然資本の深刻な劣化にほかならない。

もし自然資本が著しく劣化して生態系サービスが断絶するような事態が訪れたとき、企業経営にどのようなリスクが生じるか。それを考えておくことは金融機関や投資家にとって重要である、という問題提起がTNFDの起点にある。

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自然資本を拡充することに貢献できる企業は事業機会を有する、という前向きな発想も含まれている。

「自然資本」の概念が普及するきっかけは、12年6月開催の「国連持続可能な開発会議」(リオプラス20)だった。その後、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)が、自然資本の考え方を金融商品に取り入れていくことを「自然資本宣言」によって提唱。複数の金融機関の署名を集めた。

国際統合報告評議会(IIRC)が示したフレームワークにも、この概念は登場する。12年に設立された「ビジネスのための生態系と生物多様性の経済学連合」、後に「自然資本連合」に改名した組織は16年7月に「自然資本プロトコル」を発行した。経営の中に自然資本に関するマネジメントを取り入れるための標準的な方法を示した。

TNFDが、TCFDの成功をヒントにしていることは間違いない。その着想は19年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で生まれたという。

同フォーラムは、世界各国の国内総生産(GDP)合計額の半分以上にあたる年間44兆ドルの創出経済価値が生態系サービスに依存しているという分析を発表した。

自然環境にプラスの経済へ転換することで、年間約10兆ドル規模の事業機会と30年までに約4億人の雇用が生まれる、との分析結果も明らかにしている。

UNEPは20年6月に公表した文書で、生態系サービスの消失が年間で少なくとも4790億ドルの経済損失をもたらしていると指摘した。こうした複数の流れが足元で大きなうねりになってきたといえる。

TNFDの本格的な活動は、9月にニューヨークで開催される国連生物多様性サミットで非公式ワーキンググループが正式に発足することで始まると伝えられる。7月21日には英国やスイスの政府、世界で10の官民の金融機関が、ワーキンググループに参加することが報じられた。

気候変動リスクにかかる金融当局ネットワーク(NGFS)、経済協力開発機構(OECD)、自然資本連合(NCC)などはアドバイザリー・グループに加わるという。

日本企業にも今後、自然資本の劣化が経営に与える影響やリスクを把握して、投資家に向けて情報開示していくことが求められるようになる。TNFDは議論を重ねて、情報開示フレームワークの普及と実用化を図る時期を22年の半ば以降と見込んでいる。対応するための時間は意外に短いかもしれない。

[日経産業新聞2020年8月21日付]

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