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偏見無くし観光に光を

SmartTimes WAmazing代表取締役社長CEO 加藤史子氏

ウイルスより怖いのは人間の差別、偏見、中傷である。この3カ月半の間、全国で唯一「感染者ゼロ」だった岩手県だが、7月29日に新型コロナウイルスの陽性者が初めて確認された後、感染者の勤め先やネット上には中傷や差別発言が相次いだそうだ。

岩手県に限らず、全国各地で県外ナンバーの車を傷つけるといった事案が起き、県外からの来客を断る看板を掲げる店もある。人間の差別、偏見、中傷は、新型コロナウイルスより深く人を傷つけ、長く人を苦しめ、最悪の場合は死にいたらしめる可能性すらある。

15世紀から18世紀にかけての中世ヨーロッパでは、推定4万人から6万人が処刑されたという「魔女狩り」なるものがあった。「魔女狩り」の背景には諸説あるが、感染症のペストや戦争などの災禍が起こっていた時期と地域で、魔女狩りが盛んに行われていたと主張する説もある。魔女狩りが戦争や天災、疫病に対する庶民の怒りのスケープゴートであったという見方だ。数百年を経て、21世紀は科学も進化し感染症や天災のメカニズムも解明されている。だが、それでもなお我々の精神が未熟で進化に乏しいということならば、とても悲しいことだ。

他県からの来訪者や医療従事者に対する差別・中傷が横行している今、私が強く危惧するのは日本が海外に対して鎖国してしまうことだ。今後、少しずつ国際社会との人的交流が再開するなか、各地域で外国人来訪者に対する差別、中傷が横行する可能性について心配している。

当社の事業領域である観光産業は個人と個人の交流で支えられている。「観光」の語源は、中国の儒教の経典である四書五経の一つ『易経』にある「観国之光」。国の光を見るというものだ。観光客は国の利害や体面を背負っているわけではなく、訪れた土地の人とかかわりを持ちながら、その土地の文化、歴史、自然を学び、楽しむという純粋な動機でやってくる。

国際関係上、地理的に近い国、地域とは時に緊張をはらむこともあるが、観光では逆に、地理的に近ければ近いほど観光客数は多くなり個人と個人の交流も活発になる。訪日外国人旅行者の出身地域を多い順に並べれば中国、韓国、台湾、香港となり、この4地域の合計で全体の7割以上を占める。

国や地域同士の関係とは別に、観光においての個人と個人の関わりは相互理解と温かさに満ちている。観光産業はいわば平和への架け橋なのだ。新型コロナウイルスと人類との戦いは、まだ収束していない。感染予防の行動をとることが欠かせないが、新型コロナがもたらす人と人との分断が心配でならない。日本国内だけでなく、海外に対しても深刻な禍根を残すことにならぬよう、我々は引き続き感染症を「正しく恐れて」いく必要がある。

[日経産業新聞2020年8月19日付]

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