東急ストア、LINE活用で囲い込み 自社基盤との連携に効果
奔流eビジネス (D4DR社長 藤元健太郎氏)
最近、ネット企業の間で「スーパーアプリ」と呼ばれる考え方が注目されている。数億人という圧倒的なユーザーを抱える中国の主要アプリが様々なミニアプリを組み込んで、ひとつのプラットフォームの中で多様なサービスを提供できるようにしたところから生まれた概念である。代表格はテンセントの対話アプリ「微信(ウィーチャット)」とアリババ集団傘下のアント・グループの決済アプリ「支付宝(アリペイ)」だ。

日本でもLINEとヤフーが似たような動きを見せている。国内で圧倒的に強い情報ポータルサイトであるヤフーはここ最近、決済サービスである「PayPay(ペイペイ)」を中心とした経済圏作りに力を入れている。すでに多くのサービスの名称にペイペイを組み込んでいる。
LINEもこれまでのコミュニケーション機能を拡充する形で、ミニアプリを増やしている。両社の経営統合が発表されてから、強大なアプリ連合が日本でスーパーアプリ化していくのではという観測が強まっている。メルカリなども対抗馬として同様の施策を進めている。
LINEでは公式アカウントからミニアプリを使える点で利便性が高い。これを踏まえ東急ストア(東京・目黒)の成功例を検証してみよう。
同社はまず、2014年に自社アプリとして「東急ストアアプリ」を始め、6年ほどで10万人の会員を集めた。これに対し20年4月から、LINEの公式アカウントを使って、LINE上でも会員集めを始めた。すると現状で16万人が登録し、自社アプリを追い抜いてしまった。
東急ストアはアプリ開発の基盤が自社内にあったため、LINEとのポイント連携機能などは自社開発している。自分達のデジタル基盤の上にLINEの顧客導入部分を実装した形だ。そのため顧客データベースとの連携も容易で、購買行動にひも付いてターゲティングしたクーポン配信なども順次増やしていく。

今後は購買に基づくアンケートやマストバイキャンペーンなどのデジタルマーケティング施策も打っていく。上顧客には自社アプリ、幅広い顧客層にはLINEアプリという使い分けを実現。店舗とインターネットの垣根をなくす「OMO(オンラインとオフラインを融合させるマーケティング)」を東急グループ全体に広げるための実験場としての役割も、LINEとの連携で果たしていく考えだ。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う新常態で、多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速する必要に迫られているが、スピード感をもって実現するためには、自前で全てを開発していては間に合わない。かといって全てを他社に依存していては、効果は限られてしまう。
東急ストアのように、自社の基盤の上にスーパーアプリを活用するのは1つの選択肢となるだろう。顧客接点など変化の激しい部分はスーパーアプリに任せ、競争力となるデータマーケティングなどの部分は自社で構築するというわけだ。もっとも、多数の競合企業が同じ手法をとるようになると、結局はブランド力がないと多数のアプリの中で埋没するかもしれない。
[日経MJ2020年8月14日付]関連企業・業界