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個対個、マーケの王道に

SmartTimes iU情報経営イノベーション専門職大学教授 久米信行氏

私の人生を変えた一冊に「企画書―1999年のためのコンセプト・ノート」がある。1970年代に橘川幸夫さんが参加型雑誌「ロッキングオン」や「ポンプ」創刊の経験について書いた本だ。

1963年東京都墨田区生まれ。国産Tシャツメーカー久米繊維工業の三代目(現相談役)。ICTと英語活用で起業を目指すiU情報経営イノベーション専門職大学教授。多摩大学客員教授。明治大学講師

私はこの書籍に触発され、誰もがネットでオリジナルTシャツを創れるサイトを開設、1997年に日経インターネットアワードを受賞した。以来、橘川さんが予見したネットでつながる参加型社会の到来を折に触れて感じてきた。

今回の橘川さんの新著「参加型社会宣言―22世紀のためのコンセプト・ノート」は、想像もしない形でお披露目された。橘川さんは、多くの出版社に請われ書籍を執筆、出版してきた。それなのに、今回はクラウドファンディングで印刷資金を集め、出資者向けに公開執筆する形で進められた。出資者への返礼には、出版記念パーティーへの参加券まで含まれていた。

それは読者一人ひとりを知り意見を交わしたいからだ。出版と言っても不特定多数に一方的に伝えるのではなく、顔の見える読者に手紙を出す感覚に近い。

この書籍もかつての「企画書」同様、新たなビジネスプランが多数提案されている。本来なら自ら企画を実現すれば良いのに、企画を生かすのは読者という参加型の提案本なのだ。

私もプロジェクトに出資参加したが、執筆した原稿が次々に送られてくる。図らずも執筆半ばで、コロナ禍が広がり、本の内容も変わっていく。新しい時代が始まる転換点に提言をする本に進化した。出版社が介在していたら、ここまで橘川さんの自由は認められていなかっただろう。

執筆が終わった時点で、またも異例の展開が始まった。校正前の原稿が出資した各界のリーダー達に送られ、出版前にビデオ会議システム「Zoom」で著者との一対一の対談が行われたのだ。光栄にも私も対談相手に選ばれ、議論は1時間半にも及んだ。

対談集は続々とユーチューブに配信され、同書はオンライン対談で議論を発展させていく発酵食品のようにも思えてくる。出版記念パーティーもZооmを通した開催だったが、かえって心温まるものになった。喧騒もなく、ゲストの顔も見えスピーチもじっくり聞けた。著者を慕う各界の達人が集い、チャットも楽しんだ。

さらにZооmの達人である田原真人さんをホストに読書会が組織され、既に百数十人が頻繁に議論している。参加すると著者を囲んで各自が夢を語り合っていた。こうして生まれた本はアマゾンの「メディアと社会」カテゴリーの1位に輝きベストセラーになった。マスではなく個対個の熱い語りかけこそが、コロナ後の参加型社会におけるマーケティングの王道だといやが応でも知らされる。私も次回は新しい出版に挑戦しようと燃えている。

[日経産業新聞2020年8月5日付]

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