人生にプランBを持て
新風シリコンバレー SOZOベンチャーズ創業者 フィル・ウィックハム氏

2020/7/21付
保存
共有
印刷
その他

少し前の話になるが、6月初旬に21時間のサンフランシスコ―成田空港の往復の旅行を終えた後のことだ。不思議と疲れてはいるはずだが、とても落ち着いていた。貴重な体験をし、学びの多い旅だった。

ベンチャーキャピタリスト教育機関のカウフマンフェローズの会長。データ解析やフィンテック、クラウドなどのIT(情報技術)のスタートアップに投資するSOZOベンチャーズを2011年に設立。

ベンチャーキャピタリスト教育機関のカウフマンフェローズの会長。データ解析やフィンテック、クラウドなどのIT(情報技術)のスタートアップに投資するSOZOベンチャーズを2011年に設立。

私は妻子が日本に住んでいるため、サンフランシスコが「シェルター・イン・プレイス(屋内退避勧告)」になって以降、長く家族と過ごす時間をもてなかった。日本の様子も落ち着いてきた時期をみて、日本に行ってみようと思うようになった。準備は入念にしたつもりだった。4~5センチメートルの厚みになった書類も準備した。日本でのVISA(査証)もある。正直、何の心配もしていなかった。

しかし、成田空港での2時間のインタビューの後、同じ飛行機に乗せられ、米国に返されることになってしまったのだ。帰りの便で悲しみや怒り、ひどい仕打ちにあったような気持ちになったが、すぐに反省する気持ちに切り替わった。

成田空港に着いた時点で悪い予感はあった。空港は混沌としていた。最前線で海外からの旅客を受け入れるスタッフは、とても丁寧にかつ親身に対応し、最後まで努力していた。私以上にストレスを感じ、「入国できない」というメッセージを毎回伝えるのも気持ちの良いことではないだろう。最前線の人々の顔を思い出すと、自分をかわいそうには思えなくなってきた。私はただ、席に座っていれば良いだけだったためだ。

なぜ、こんな状況に陥ってしまったのかを考え、自分を抑制する。帰国の便ではこれからの時間やエネルギーの使い方を再考する良い時間にすべきだった。

私は自分の限界を押し上げたい傾向がある。たまにうまくいかないことがあるのも事実で、今回も挑戦的であったことは認識していなかったわけではない。

フライトは週末を利用した移動だった。往路で飛行機に乗っている間、本を読み、映画を見て楽しんだ。復路も本を読み、映画を見た。いや、待て、私がサンフランシスコで家にいたら、何をしていたか。多分、本を読んで映画を見ていたに違いない。それが自分の部屋だったか、ビジネスクラスの快適な席だったかの違いだけではないか。

世界は技術の進展により狭くなり、情報の伝達も早まった。ビデオ会議サービス「Zoom」で国際間の電話会議にも問題がない。他方、米国では査証の年内発券停止により、日本だけでなく海外からも、米国へ人が往来しづらい状況が当分続くだろう。

そんな状況でも、米スペースXが民間初で人間を宇宙ステーションに到達させるニュースが伝わった。火星への移住計画も真面目に議論される世の中だ。それなのに、隣国の日本にも行けないなんて、とても不思議な気持ちになる。それでも人間は旅行もしたいし、家族には対面したいし、火星にも行きたいのだ。

私は今回のコラムを日本ではなくメキシコでまとめたが、もちろん、家族も一緒だ。人生には必ず「プランB」があるのだ。諦めずに達成すれば良いだけだ。

[日経産業新聞2020年7月21日付]

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]