コロナ禍で広がるオンライン診療 地域格差にメス、変革の契機に
奔流eビジネス (D4DR社長 藤元健太郎氏)
新型コロナウイルスへの懸命な対応で医療従事者への賛辞が広がる一方、感染不安によって通院患者が減り、打撃を受けた医療機関もある。ボーナスカットで看護師の退職者が増えているといった報道もあり、コロナ禍は医療業界の構造問題を浮き彫りにした。

こうしたなか、海外ではオンライン診療が加速している。米国ではコロナ前に23%だったオンライン診療対応の医療機関が76%に増加。患者の10人に1人はオンライン医療サービスを使っているというデータもあるようだ。
中国でも武漢や上海は、病院をもたないオンライン専門の診療業者に対しても保険適用を認め、利用が急増。最もメジャーなサービスとされる「Ping An Good Doctor」は1月20日から2月10日の期間で、延べ11億人分のアクセスがあったと言われている。
日本では2015年に解禁されて普及が期待されたが、18年度の診療報酬改定でオンライン診療料が新設されてトーンダウンした。ところが今回のコロナ禍により、初診患者での利用解禁が始まった。
日本の草分け的存在で、オンライン診療アプリ「クリニクス」を提供しているメドレーによると、4月の新規導入医療機関数は2月の10倍になった。患者側の新規登録も9倍に増加するなど本格的な利用が始まったことがうかがえる。もっとも、医療現場のデジタル対応が追いつかないため、手厚いサポート体制を敷かざるを得ないという。
本格的な効果を出すには電子カルテの標準化や薬剤師のフォローアップなど、トータルでのデジタルトランスフォーメーション(DX)が必要だ。日本の医療はようやくデジタル化の入り口に立ったばかりと言える。メドレーの共同代表である豊田剛一郎氏は「オンライン診療が地域間のリソース格差を解消し、日本の医療全体の最適化につながる」と指摘する。
地域の資源だった医療がオンライン化によって点から面になることで、過疎化や高齢化、医者不足など日本が抱える課題に対応できる。DXがさらに進めば国境を越えて医療が提供される日が来るかもしれない。

今のテクノロジーを考えれば、診療行為が大変革することも期待できる。例えば、アップルウォッチなどのウエアラブル端末を使えば、患者の日々のバイタルデータや画像を医療機関に送れるだろう。医療機関側はこうしたデータを人工知能(AI)で解析し、アラートを出したり、医者に通知したりすることも考えられる。
緊急性が乏しい場合は、アプリやチャットボットAIなどを活用した診療行為により、医者の貴重な時間をロスせずにすむかもしれない。医者の手間を最小限にとどめることで、対面で行わなければならない診察や、メンタルケアも含めたハートフルなコミュニケーションを増やすことができる。
医療機関のDXは医療の手間や費用を抑制することにとどまらない。医療全体を「メディカル」から「ウェルビーイング」、つまり幸福を追求するための付加価値の高いサービス業に転換させることにつながるだろう。
[日経MJ2020年7月17日付]