コロナ復旧に環境の視点
SmartTimes BEENEXT ファウンダー・マネージングパートナー 佐藤輝英氏
新型コロナ問題を発端に「デジタルリカバリー」の旗印が掲げられ、ウイルスとの共存に折り合いをつけながら経済の再活性化を図ろうとする動きが各国で顕在化している。だが、長期的視点に立つとさらに大きな地球環境問題が世界を覆っている。今後の様々な政策は単なる「復旧」ではない。地球環境にやさしい復興、つまり「グリーンリカバリー」に道筋をつけることこそ未来世代に対する我々の責務になっている。

インドの大気汚染は深刻だが、首都デリーにいたっては毎年世界のワーストの大気汚染都市にカウントされている。今回の長期にわたるロックダウンで、一時的ではあるが汚染度は大幅に改善され、ニューデリーでは大気汚染指数がロックダウン後に66%改善。インド北部のパンジャブ州からは実に数十年ぶりに200キロ近く離れたヒマラヤ山脈が見晴らせるようになったそうだ。それでも、根本的な解決にはほど遠いのは明らかだ。
そうした巨大な地球環境問題にテクノロジーとデータの力で挑む会社が「ブルースカイアナリティクス社」だ。2018年設立の同社は、米航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関、各種の人工衛星から集まるテラバイトクラスの膨大なデータを独自の人工知能(AI)インフラで分析し、API(データ連携の仕組み)で外部の会社や公共機関に提供する事業を展開している。
ユーザーがいる現在地の大気汚染状況を正確に把握できる機能を大手携帯キャリアに提供。ユーザーは携帯電話から自分の周辺の汚染状況をリアルタイムでチェックできる。ほかにも山火事や畑の野焼きの発生状況など環境へのインパクトが大きいリアルタイムデータを環境関係団体に提供したり、地下水の量や川などの水位を人工衛星データから割り出し、保険会社や環境機関に提供したりするサービスも開発している。

こういった地理空間情報を分析するマーケットは、これから大いに期待できる成長産業で、2025年には1340億ドル規模になると言われている。地球環境をリアルタイムで把握するデータサイエンスの力は大きい。
国連によって採択された持続可能な開発目標(SDGs)を意識した企業や国家、投資家は増えている。その進捗を見える化し、企業統治やリスクアセスメントに活用しようとする流れは不可逆的だ。
「MIT Solve」という、マサチューセッツ工科大学が主催する世界の課題解決を使命とするイニシアチブから大きな支援金を得たブルースカイアナリティクス。グーグル元最高経営責任者(CEO)のエリック・シュミット氏が運営する財団からも表彰された。インドのみならず、世界中に抜けるような青空を取り戻す役割を果たすことを願っている。
[日経産業新聞2020年7月15日付]