迷える駐在員の脱し方
新風シリコンバレー 米NSVウルフ・キャピタルマネージングパートナー 校條浩氏

2020/7/14付
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「シリコンバレーの新橋」という皮肉がある。日本のシリコンバレーの新任駐在員が、スタートアップのインキュベーション施設などに迷える羊たちのようにたむろする姿を冷やかした例えだ。IT(情報技術)と異なる本業を持つ企業が、シリコンバレーに駐在員を送るようになった結果、企業の駐在目的が漠然となって、困った駐在員が優しく接してくれる所に集まるようになった。

めんじょう・ひろし 小西六写真工業で新事業開発に従事。BCGを経て1991年にシリコンバレーに移住。新事業コンサルティングを経て、ベンチャーキャピタル及びファンド・オブ・ファンズを組成。

めんじょう・ひろし 小西六写真工業で新事業開発に従事。BCGを経て1991年にシリコンバレーに移住。新事業コンサルティングを経て、ベンチャーキャピタル及びファンド・オブ・ファンズを組成。

かつてシリコンバレーにはITを本業に持つ企業が駐在員を送っていた。同様の技術基盤がある地で駐在する目的は明確だった。最近はあらゆる業種の企業が駐在員を送る。今ではその数は900社以上になる。では、どうしたら新橋から脱せられるだろうか。

最近、日本貿易振興機構(JETRO)・サンフランシスコ事務所が開いた「オープンイノベーション事業について考える」という討論会がヒントになる。生き馬の目を抜くようなシリコンバレーでは、「受け身でなく自ら動き、本社に提案して経営幹部を説得するくらいの気構えでないと何も始まらない」というのが討論での共通意見だった。

それをできる駐在員は、「そのようなチャレンジを自分のこととして捉え、高い熱量を持って行動する人たちだ」という。属人的な性格や能力によるところが大きく、成功のカギは駐在員の人選にあると言える。

ただ、駐在員は3年程度のローテーションで人が入れ替わってしまう。活動を継続させるには、「組織による仕組みづくりが重要だ」ともベテラン駐在員は言う。本社とシリコンバレーの間で常にキャッチボールをできる関係づくりが重要なわけだ。さらに言えば、本社の主体性をどう引き出すか、どちらがピッチャー、キャッチャーなのか、という議論に続く。

古くて新しい議論だが、理解するにはイノベーションの本来の目的に立ち戻る必要がある。イノベーションには、既存の事業を改善するものと、事業そのものを革新するものがある。当然、目的によって駐在員のあるべき姿は異なる。シリコンバレーの駐在員が頭で描くのは、ほとんどが改善型だ。この場合、すばらしい活動をする先輩駐在員から学び、「新橋の迷える羊」から抜けるしかない。

一方、革新型は新しい課題の探索だ。新しい課題に思いをはせるためには、自らを既存業界の常識の枠の外に持っていく必要がある。駐在員がこれを実行するには、経営トップがそれを主導しなければならない。

しかし、ほとんどの経営トップは、具体的な新しい課題のヒントを得るような環境にいないため、いきなり主導することは難しい。

この時に欠かせない役割を果たすのが、経営トップへのアドバイザーである。経営トップ自らが、シリコンバレーの本物のプロフェッショナルの中から信頼できる人物を見いだし、駐在員の主導を支援してもらおう。この経営トップの能動的なリーダーシップがあって初めて、駐在員が革新型イノベーションの活動を始められるのである。

[日経産業新聞2020年7月14日付]

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