教育格差をITが解決
新風シリコンバレー WiL共同創業者兼CEO 伊佐山元氏

2020/6/30付
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今、アメリカでは警官による黒人のジョージ・フロイド氏殺害事件をきっかけに、人種差別、貧富の差への鬱積した憤まんが爆発している。本来、強いリーダーシップで混乱を収束すべき大統領も、火に油を注ぐような言動ばかりで、社会全体が混沌としている。

1997年東大法卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2003年から米大手VCのDCM本社パートナー。13年8月、ベンチャー支援組織のWiL(ウィル)を設立。

1997年東大法卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2003年から米大手VCのDCM本社パートナー。13年8月、ベンチャー支援組織のWiL(ウィル)を設立。

シリコンバレーでも平日も週末も「BLM(Black Lives Matter)」をテーマにした集会やデモ行進が行われている。私自身、20年近くベンチャー投資支援を仕事にしているが、黒人創業者のベンチャーに投資したことは一度だけで、普段出会うことは極めてまれだ。

ベンチャーキャピタル(VC)業界でもアジア人は増えたものの、黒人のVCと仕事を一緒したことはない。大手IT企業の幹部にも、黒人は極めて少ない。そんな現状に対して、黒人は能力がないから、怠け者だから、と言う向きが米国である。ある意味、米国社会はそういう空気を前提に、これまで発展してきた側面もおおいにある。

ところが、実態はそう単純ではない。奴隷制を背景とした黒人を取り巻く環境は、その他の人種と比べると、あまりにもハンディキャップだらけの境遇であることにがくぜんとする。

まず、黒人の住むエリアはおのずと決まっており、その多くはスラムなどの貧困地区だ。当然税収も少なく、公共サービスも劣る。特に公立学校の運営費は、その地域の固定資産税から多く賄われるため、貧困地区な故に、教育の設備も水準も低くなる。いわゆるエリート大学に進むのは、極めて困難な試みになる。

良い教育を受けられないということは、高収入の仕事には就けない。両親は当然共働き、子供はファストフード中心の生活になり不健康、非行や犯罪に走る、という悪循環になる。結果、他の人種に比べて、明らかに失業率も高く、平均寿命も短く、新型コロナによる死亡率も高い。アジア系の住民と比べ、平均所得は半分以下、貧困率は倍以上、大学進学率も半分近い。

建国の歴史に始まる、黒人に対する社会システムの偏見や差別は、構造的な人種差別として、今のところ解決法がない。デモ行進も、具体的に何を求めているのかが不明確で、時間と共に関心が薄れる危険性がある。黒人差別をなくそうという善意の志が広まる一方で、騒動に便乗した略奪や破壊の多くが、黒人によるものであることも皮肉だ。

法的な優遇措置や財務的支援ではなく、黒人に対する教育制度をいかに充実させるかが、この問題の解決につながると考えている。新型コロナを機に、教育現場にITが普及した。黒人の子供たちに対するパソコンとインターネット環境を保証し、学ぶことの意義を啓蒙する活動しか、根本的な解決にならないだろう。

危機という漢字は、「危険」と「好機」という二文字の組み合わせでもある。今回の危機に対しては、IT技術を駆使する教育関係のベンチャーが、教育の格差を平準化して、誰もが社会で活躍する技と機会を得られるような環境を作るチャンスだと考えている。

[日経産業新聞2020年6月30日付]

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