春秋

春秋
2020/6/29付
保存
共有
印刷
その他

「なんだ、あの黒い雲は」。明治末期の北海道。平原のかなたに、むくむくと雲がわいたと思ったらトノサマバッタの大群だった。人気漫画「ゴールデンカムイ」の一場面である。無数の虫たちはまたたく間に作物を食い尽くし、人はただ逃げ惑う。「蝗害(こうがい)」の恐怖だ。

▼アイヌ民族の少女や日露戦争の帰還兵が財宝を追い求めるこの物語は、北海道の近代史を知る格好のテキストだろう。たび重なるバッタの襲来も史実である。「こいつら、集団で飛び立つと何十キロもの距離を移動して海だって越えちまう」。作中人物が嘆くとおり、トノサマバッタの群れは大昔から人類を苦しめてきた。

▼その仲間のサバクトビバッタが、いま世界を荒らし回っている。億単位の集団をつくり、1日の飛行距離は130キロメートル以上という。すさまじく繁殖して東アフリカやアラビア半島で猛威を振るい、群れはペルシャ湾を越えてパキスタンへ、インドへ。中国も警戒態勢に入っているそうだから、もはや遠い場所の話ではない。

▼北海道の蝗害は昭和初期まで続いた。こんどの「黒い雲」が日本にまで広がることはないにせよ、各地の食糧不足は地球全体に影響を及ぼすに違いない。新型コロナウイルスと向き合わねばならぬ困難な時代に、もうひとつの脅威が立ちはだかっているのだ。この虫たちの異常な繁殖は、地球温暖化が一因との指摘もある。

保存
共有
印刷
その他

関連キーワード

電子版トップ



[PR]