米大統領選と気候変動対策 交代ならEU・中国と協調も
Earth新潮流 日本総合研究所理事 足達英一郎氏

コラム(ビジネス)
2020/6/26付
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11月の米大統領選挙が近づく中、気候変動対策も論点として動き出している。米国の民主党において、全国の党組織を統率する機関が民主党全国委員会だ。この傘下に2019年、環境・気候危機協議会という恒久チームが新設された。

そして20年2月から民主党綱領の制定に向けて、全米のあらゆる階層で様々な声を聴き、提言を作成する活動を開始した。新型コロナウイルス禍が全土で拡大する期間にあって3カ月を費やし、6月4日に提言の内容が公表された。

「大胆かつ野心的な変容」と銘打たれた14ページに及ぶ文書は極めて刺激的だ。(1)科学にもとづく国家気候行動計画を策定する、(2)40年までにネットゼロ排出に近い水準を実現する、(3)30年までに発電、建築物、輸送に関して100%再生可能エネルギーの利用とする、(4)気候危機への対策として、向こう10年間で10兆~16兆米ドルの連邦予算を投入する――などをあげている。

各論でも、(1)国家緊急法のもとで気候危機を宣言し、大統領の権限を強化する、(2)環境保護庁を連邦レベルの省に昇格させる、(3)30年までに化石燃料自動車の販売を終了させる、(4)化石燃料の探査と生産に関わるあらゆる優遇措置を停止する、(5)気候変動と経済安定との関係性を認識し、通貨・財政当局は気候リスクを管理することを義務にする、(6)年金基金などの公的ファンドは化石関連産業から投資を引き揚げる、など目を引く項目が尽きない。

◇ ◆ ◇

米民主党のバイデン前副大統領は11月の大統領選へ気候変動の踏み込んだ政策綱領を示すとみられている=ロイター

米民主党のバイデン前副大統領は11月の大統領選へ気候変動の踏み込んだ政策綱領を示すとみられている=ロイター

民主党の大統領候補指名を確実にしているバイデン前副大統領も、既に予備選挙における公約で「50年までに100%のクリーンエネルギー経済と正味ゼロの排出量を達成する」、「炭素回収隔離技術の開発と展開を加速させる」、「パリ協定に復帰し、各国の気候目標の野心的引き上げのため外交をリードする」、「気候と環境の義務を果たせていない国からの炭素集約型製品輸入には課徴金または数量割り当てを課す」などを盛り込んでいる。

それでも党内左派からは「既存エネルギー産業と関連就業者や労働組合への配慮が目立つ」、「向こう10年間の連邦支出が(予備選挙の公約では)少なすぎる」といった声が相次いだ。かつてのオバマ政権では、実質GDPが伸びても温暖化ガス排出量を増やさない状況を実現できていたこともある。

バイデン氏は5月に気候変動対策を立案するタスクフォースを立ち上げ、ケリー元国務長官と予備選を争ったオカシオコルテス下院議員を共同議長に据えた。オバマ政権時代にパリ協定の成立に尽力したケリー氏とグリーンニューディール推進の急進派であるコルテス氏により、党内の右派と左派の融和を図ろうという思惑だ。

ただ、大統領候補指名を得る8月の党大会で、予備選挙時の公約よりも踏み込んだ内容で政策綱領が決定されるとする観測も根強い。

翻って日本国内ではコロナ禍により、気候変動対策の潮流が雲散霧消するだろうとの見方が出ている。世界経済への深刻な打撃と失業者急増で、企業経営と雇用の危機が迫っており、厳しい気候変動対策などと悠長なことは言っていられない、との主張だ。最近、産業界や有識者の討論を視聴していると耳にする。

米国でも石炭火力発電のシェアは低下している(閉鎖前のアリゾナ州の発電所)=AP

米国でも石炭火力発電のシェアは低下している(閉鎖前のアリゾナ州の発電所)=AP

具体的には(1)負債を膨らませた企業は設備投資を徹底的に抑え、コスト削減や生産性向上など短期的にリターンの期待できる投資だけを行う、(2)金融機関は急激な信用収縮に直面し、金融危機の懸念が高まるなかで長期的なグリーンファイナンスなどの余力はない、(3)各国政府は長期にわたって緊縮財政と増税を同時に追求せざるを得ず、気候変動対策のための財政支出や民間資金が動員される余地は狭まる、(4)政府が脱炭素化と称して産業構造の変化を誘導し、新たな雇用喪失を引き起こす可能性がある政策を打てるはずがない、(5)エネルギー需要の激減で原油価格は暴落し、化石エネルギーの相対的な価格競争力が高まることで、再生可能エネルギー導入の遅滞は必至――。

要するに「気候変動対策などは一部の豊かな人々の、ぜいたく品の欲求にすぎなかったのだ」という指摘だ。

もちろん、そうした未来もひとつのシナリオではある。しかし足元で、異なったシナリオの材料がある。日本経済新聞社の調査によれば、「20年度の研究開発費を明らかにした32社のうち、約8割で19年度実績以上を計画している」という。目先の需要減に対応して6割の企業が設備投資を抑えるが、コロナ禍でも中長期の種まきは欠かさないとみられる。

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トヨタ自動車の豊田章男社長は5月12日の決算発表説明会で「地球とともに社会とともに、すべてのステークホルダーと共に生きていく、ホームタウン、ホームカントリーと同じようにホームプラネットを大切に企業活動をしていく」と言明した。ブラックロック日本法人の福島毅最高投資責任者は「今後の企業評価のポイントは、変化への対応力」と指摘する。

5月29日、中国の人民銀行、国家発展改革委員会、証券監督管理委員会が連名で公表した「グリーンボンド対象事業カタログ2020年版草案」からは、高効率石炭火力発電を適格とする記述が初めて削除された。石炭の使用を即座に停止すると内容ではないが、中国ですら脱化石燃料に向けて徐々に舵(かじ)を切ろうとしている。

11月の米大統領選挙の結果を今から予測することは困難である。しかし、仮に大統領が交代する状況になるのなら、米国が欧州連合や中国と気候変動対策の局面については協調行動に転じる可能性もある。日本企業や政府において、そうしたシナリオも想定し、対応アクションを検討しておくことは、決して無駄ではないと思われる。

[日経産業新聞2020年6月26日付]

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