消せないネット表現の注意点 10年後に通用するか検証を
奔流eビジネス (通販コンサルタント 村山らむね氏)

2020/6/26付
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NIKKEI MJ

完全に消すことのできないインターネット上のやり取りや書き込み。今年に入って起きた2つの大きな出来事をきっかけに、企業はその表現について、以前よりも細心の注意を求められるようになってきている。

米ホワイトハウス近くの通りには「ブラック・ライブズ・マター」のスローガンが描かれた=ロイター

米ホワイトハウス近くの通りには「ブラック・ライブズ・マター」のスローガンが描かれた=ロイター

1つめの出来事は新型コロナウイルスの感染拡大だ。先の見えない不安の中で、テレビやネットなどで情報を入手し、ストレスやいら立ちをSNSなどにそのままぶつけるような人が出始めた。

従業員がマスクをしないことや店舗が営業を続けることへの批判的な態度は「自粛警察」とも呼ばれた。コロナをきっかけに、他者の表現や発言を受け止めるストライクゾーンが狭まり、コロナ関連以外でも、言論や企画について自警団のような雰囲気も出てきている。

もう1つの出来事が「ブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命は大切だ)」。黒人男性の圧迫死事件を機に、抗議デモが全米、全世界に拡大している。

今まではなんとなく見過ごされてきたような表現でも注意が必要になった。それが今許されないだけではなく、許された過去のものであっても、露出を控える方向に動き始めている。例えば米国では、動画配信サービス「HBOマックス」が映画「風と共に去りぬ」の配信を一時停止した。作品内の描写が偏見を含むと判断したという。

今後、ネットでの発言や表現について、企業はどのような点に気をつけるべきか。まずは様々な立場への配慮を忘れず、思いやりを持って対応することが求められる。「誰も傷つけない表現はない」という謙虚な姿勢のもとで、何かクレームや苦情があればすぐに応じていく。特に今までは見過ごされてきたような「自虐的表現」は注意が必要だろう。

むらやま・らむね 慶大法卒。東芝、ネットマーケティングベンチャーを経てマーケティング支援のスタイルビズ(さいたま市)を設立、代表に。

むらやま・らむね 慶大法卒。東芝、ネットマーケティングベンチャーを経てマーケティング支援のスタイルビズ(さいたま市)を設立、代表に。

過去の広告などについては、現代の基準から見るとそぐわないものがあるかもしれない。その場合は丁寧に説明するしかない。過去は消せないし、人の気持ちは常に変化する。だからこそ、今後は「10年後にこの表現は通用するのか」という視点で検証してみるといいだろう。

ネット上の制作物は運営者が消したつもりでも完全に消すことはできない。速やかに削除することが誠意でもあるし、消せないという前提できちんと謝罪することも重要だ。もちろん、非合理的なクレームには毅然とした態度を取ることも必要だろうが、このあたりの基準が常に変化することも頭に入れておかなければならない。

社員のオフの発言にも無関心でいられない。ネット上であろうがなかろうが、社員が加害者になるケースもある。ネットリテラシーを高めることが企業の社員教育として必要なのかは議論の余地があるが、検討には値する。

コロナとBLMをきっかけに、これまで比較的おおらかだったネット上の表現に厳しい目が向けられるようになった。人種の違いや性別の違いなどを、差別ではなく尊重という形で受け止めるのは人として当然のことだ。それを企業としても当然のように求められる時代になった。ネット上の表現への配慮が、今までとは格段に重要になったことを肝に銘じるべきだろう。

[日経MJ2020年6月26日付]

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