中二病が既存の壁崩す
SmartTimes 東京農工大学教授 伊藤伸氏

2020/6/22付
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中二病――。中学2年生前後の思春期にありがちな自意識過剰の行動や思考を指す。極端になると、空想の世界の英雄や悪魔など物語の主人公になりきってしまうこともある。中高年層にはなじみの薄い言葉かもしれないが、中二病を扱った小説やアニメは多数あり、それなりに市民権を得ているワードのようだ。

新聞記者を経て、2001年農工大ティー・エル・オー株式会社設立とともに社長に就任(現任)。2013年から東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授。大学技術移転協議会理事。

新聞記者を経て、2001年農工大ティー・エル・オー株式会社設立とともに社長に就任(現任)。2013年から東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授。大学技術移転協議会理事。

中二病という表現には蔑視的な色彩があるが、英雄願望は普遍的な欲求のひとつであろう。これは米国の神話学者、ジョーゼフ・キャンベルが提唱した「ヒーローズ・ジャーニー」という概念からもうかがえる。この概念は、世界中の多くの神話や民話に共通の構造があるという発見に基づく。ざっくりと言えば、主人公が突然、非日常の世界に遭遇し、いくつもの葛藤や困難を経て課せられた使命を果たし、故郷に帰る。影響を受けた著名な映画やアニメもあるという。

こうした英雄になるための冒険遍歴の考え方は、起業家を代表とするイノベーターにも当てはまるだろう。ヒーローズ・ジャーニーの途中には、強敵や仲間、指導者という物語の展開に必須の役者が現れる。イノベーション実現への道程も同様だが、国内では冒険に対し消極的になっているのではと気になる。

日本生産性本部が昨年実施した企業向けのアンケートでは回答した388社のうち75%が、日本企業は「破壊的イノベーション」を起こしにくいという見方に賛同した。「そうは思わない」は13%にすぎなかった。さらに社内でイノベーションを起こす人材については約9割が不足していると回答した。

しかし、企業はこれまでにない経営スピードを求められている。国内で会社の寿命30年説が盛んに唱えられたのは、30年以上も前である。インターネットが出現するずっと前の時代だ。今なら会社の寿命はいかばかりか。スタートアップはもちろん、既存の大企業も常に変革を意識しないと、たちまち時代に取り残される。

イノベーターが育ち、活躍する場の創造が企業には欠かせない。イノベーターは特定領域の専門職でも肩書でもない。ヒーローズ・ジャーニーならぬ「イノベーター・ジャーニー」は、40歳代で部長、50歳代で役員というようなキャリア計画とはまったく無縁である。イノベーションの特徴は不連続な変化であり、取り組みには予想外の事象が付きまとう。米国の成功したスタートアップに見られるように荒唐無稽で夢想的とみられがちな計画や行動が時に既存の壁を突破する。

ヒーローズ・ジャーニーの概念を使って先達のイノベーターの足跡を考察するのも有益だが、より肝心なのは主体的かつ創造的にイノベーション実現へ向けた冒険の物語を描くことであろう。その役に立つなら社会人になっての中二病も捨てたものではない。

[日経産業新聞2020年6月22日付]

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