躍進「ディズニー+」日本での死角 得意の組み合わせ販売できず
先読みウェブワールド (藤村厚夫氏)
ウォルト・ディズニー・ジャパンは11日から、動画配信サービス「ディズニー+(プラス)」を日本で始めた。2019年11月から米国を皮切りにスタートし、世界で大成功を収めているが、日本では死角もある。

まず世界での利用者数をみてみよう。昨年11月のサービス開始初日からいきなり1000万人の契約を獲得して以降、今年5月には早くも世界で5450万人に達した。24年末までに6000万~9000万人を獲得するとしていた当初の目標は、今年中にも達成しそうな勢いだ。
早速、日本語版ディズニー+を利用してみた。パソコンやスマートフォンのアプリだけでなく、大画面のテレビにつないで視聴することもできる。ディズニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズ、さらにはナショナルジオグラフィックまで知名度抜群のブランド作品が満載だ。ノウハウも蓄積されているのか目立ったトラブルもなく、上々のスタートを切った。
動画配信サービスと言えば、月額・年額の料金を払い、多くの作品を見放題できる購読型契約が一般的だ。この分野のパイオニアは米動画配信大手のネットフリックスやHulu(フールー)で、そこにアマゾン・ドット・コムやアップルも参入し、市場は急成長している。
テレビや劇場といった旧来型のビジネスでは、コンテンツと利用者の間に、放送網や劇場チェーンを運営する事業者が介在する。利用データの掌握を重視する現代では、動画配信を通じて、利用者と直接つながることが重要だ。ディズニーはまさに、旧来型市場の側に君臨してきたわけだが、近年は動画配信市場への警戒感を強めてきた。そんななかで満を持して市場に投入したのが、ディズニー+というわけだ。

動画配信では後発という自覚があるのか、挑戦する姿勢が鮮明だ。数々の著名ブランド作品を惜しげもなく投入しているのはもちろん、ネットフリックスの日本でのスタンダード版利用料金が月1200円なのに対して、ディズニー+は700円とかなり割安な価格に設定した。
もっとも、ライバルは手ごわい。市場のトップランナーであるネットフリックスは世界の利用者が1億8000万人を超え、国内でもトップを走る。19年秋にはすでに300万人を超えたという。コロナ禍で在宅時間が急増した今年は、さらに伸ばしてくるだろう。
ディズニーは日本で、ある弱みも抱える。本国の米国では、傘下にHuluとスポーツ専門放送のESPNを抱えている。こうした他のコンテンツとバンドル(組み合わせ)販売することで、一気に利用者を伸ばした経緯がある。Hulu日本版はすでに200万人以上の利用者がいるが、日本テレビの傘下にあり得意のバンドル販売ができない。米国ではスポーツ分野で圧倒的な人気を誇るESPNも、日本での知名度はそれほど高くない。
家族で安心して視聴できるディズニーだが、日本では独居化も進む。日本向けの独自コンテンツなどを投入できるかどうかも、市場攻略のポイントになる。
[日経MJ2020年6月22日付]