試行錯誤の遠隔授業
SmartTimes 大阪大学教授 栄藤稔氏

2020/6/8付
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新型コロナによる緊急事態宣言とほぼ同時に新学期が始まった。だが、大学には休業要請。授業ができるはずもない。フェイスブックには「新型コロナ休講で、大学教員は何をすべきかについて知恵と情報を共有するグループ」ができた。グループの登録者数は1万9000人いて教員が手探りで遠隔授業のあり方を模索していることが分かる。

1985年松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所、NTTドコモのシリコンバレー拠点長や執行役員を経て2017年7月から大阪大学教授。みらい翻訳社長を兼務。

1985年松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所、NTTドコモのシリコンバレー拠点長や執行役員を経て2017年7月から大阪大学教授。みらい翻訳社長を兼務。

見えてきたのは、企業では当たり前のことが大学では当たり前ではないこと。全ての学生が光回線の高速インターネットに加入して、パソコンを持っているとは限らない。そのうえ、遠隔授業では必須のカメラやマイクが品薄となり安く手に入らない。こんな話を聞くと遠隔授業が「誰一人取り残さない」という平等な教育理念から外れる懸念にもうなずける。

ただ、この懸念を払拭しなければコロナ禍では何も始まらない。筆者はこれまで大阪大学大学院情報科学研究科でイノベーション論の講義をしてきた。1回の講義は90分で15回に分けて行う。内容は未来予測からデザイン思考、デジタル変革など多岐にわたる。講義と言っても事前に課題を出し、講義中に数人のグループに分かれて議論し、それをグループ間で共有するという演習だ。

数学、物理など時代を超えた体系的知識を学ぶのであれば、予備校と同じように講演形式で教員から学生への一方向の講義を収録すれば十分。動画共有サイト「ユーチューブ」を使って配信する講義もある。

演習形式の講義の醍醐味は自分で考える、人の意見を聞く、質問をする、そして議論をすることで論理的思考を養うことにある。新規事業創造のための作法を体得するには、講演形式よりも双方向の演習形式が欠かせない。これを4月から遠隔のオンラインで実施することになった。さて、この演習がオンラインでうまくできたのだろうか。

答えは「はい」だ。遠隔会議サービスの「Zoom」を使えばグループごとに分かれて議論することができた。これに加え、インターネット上で質疑応答が交わせるサービスと、複数人が同時に文書を作成できるサービスを組み合わせ、グループ別に学習することも可能だった。

この経験で得た知見はいくつかある。教員は90分終われば疲労困憊(こんぱい)。パソコン操作に助手が必要だ。学生も手を抜けない。他方、メリットは(1)質疑応答が増えた(2)予習が定着した(3)授業の進捗がお互い参照できるので学生同士の刺激になる(4)外部講演者を呼びやすいことだ。

コロナ禍が終わったら授業は元に戻るだろうか。答えは「いいえ」だ。学生の自主的な個別学習、双方向のオンライン演習、ユーチューブなど動画コンテンツの利用を使い分けることで遠隔授業のメリットを享受できる。前に進めば未来は明るい。

[日経産業新聞2020年6月8日付]

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