春秋

2020/6/1付
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「六月は酒を注ぐや香を撒(ま)くや春にまさりて心ときめく」。6月を大いにたたえる、与謝野晶子の歌である。情熱の歌人と呼ばれる人だけに、雨の多くなるこの時分にも屈託がない。晶子には「五月は好い月、花の月……」と始まる詩もある。めげない明治の女なのだ。

▼みんながこの人みたいに元気でありたいものだが、今年の3月、4月、5月、なんと苦しい日々だったことだろう。事態は猛スピードで動き、どこか記憶も飛んでいる。そしてきょうから6月。花見もプロ野球開幕も歓送迎会もなかった春を通り過ぎた。たった3カ月前の日常が遠い昔のようだ。経験のない心持ちである。

▼こんどの災厄は世界中の人々の精神を傷つけてきた。感染そのものへの不安、家にいることによる孤独感や孤立感、家族との摩擦、テレワークの疲れ……。国連の調査では苦痛を感じている人は米国で45%、中国で35%、イランで60%にのぼるという。グテレス事務総長はメンタルヘルスの危機を訴え、対策を求めている。

▼それでも、まずは最初の大きなヤマ場を越えつつあると考えて、心を落ち着かせようか。季節も変わり、すこしずつ、戻ってくるはずの暮らし。晶子ではないが「春にまさりて心ときめく」6月になればいい。この月に寄せる歌をもうひとつ。「思いきり愛されたくて駆けてゆく六月、サンダル、あじさいの花」(俵万智)

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