キーを打ち続けよう
SmartTimes WAmazing代表取締役社長CEO 加藤史子氏
4月の当社の取扱高は1月に比べ98%減であった。当社、ワメイジングは訪日外国人旅行者向けに特化して事業展開するスタートアップなのでコロナ禍の直撃を受けた。平時よりサバイバル気味ではあるが、こうなると正真正銘のサバイバルだ。

打つべき手は3つ。コストを下げること、新規事業を立ち上げ新しい売り上げを確保すること、資金調達をすること、である。どれか1つではなく全部同時に実施する。スピードも大切だ。おかげで3月からはさらに多忙を極めている。
コスト削減の一例では固定費であるオフィス賃料削減のため、4月末でオフィスの退去届を出した。3月末から100名超の従業員はリモートワークで仕事をしているが、業務推進に支障がないこと、賃料分でアルバイトなら15名程度の雇用を維持できることなどから退去を判断した。
再び事業が拡大フェーズになったら固定のオフィスは持ちたいが、それまでは適宜リアルな場所を借りつつ、対面のコミュニケーションを挟んでいこうと思う。新規事業では従業員の4割を占める外国籍従業員のリソースを活用し、翻訳の受託事業を始めた。
今までは自社サービスのための翻訳やマーケティングに携わっていたスタッフが、現在は社外から持ち込まれるありとあらゆる文書を翻訳している。また、当期予算が決まっている行政関連組織の観光振興事業も挑戦し、既に複数案件の受託も決まり始めた。資金調達についてはデット(負債)およびエクイティ(株式)の両面を推進し、各種補助金も情報収集して活用していく。インバウンド需要は中長期的には必ず回復する。その回復期までチームを維持し会社が生き延びていることが何より大切だ。
私には定期的に何度も読み返す文章がある。米国のアクセラレーター「Yコンビネーター」の創設者ポール・グレアム氏が投資先企業を集めた夕食会で行ったスピーチで、原題を「How not to die(死なないために)」という。ここに一部だけ紹介したい。
「スタートアップが死ぬときには、公式の理由はいつも資金切れか主要な創業者が抜けたためとされる。両方同時に起こる場合も多い。しかし、その背後にある理由は、彼らがやる気をなくしたためだと私は考えている。取引したり新機能を作り出したりして24時間働き続けているスタートアップが、つけを払えなくてISP(インターネットサービスプロバイダ)からサービスを切られたために死んだというような話はめったに聞かない。スタートアップがキーを打っている最中に死ぬことはめったにないのだ。だからキーを打ち続けよう!」
危機の今、彼のスピーチを肝に銘じたい。死なないために私たちもキーを打ち続けるのだ。
[日経産業新聞2020年6月1日付]