循環経済へ金融で後押し 資源リサイクルなどへ投資を
Earth新潮流 日本総合研究所理事 足達英一郎氏

2020/5/29付
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金融活動を切り口に環境問題の解決策を探ろうとする国の研究会が、次々と立ち上がっている。22日に第1回の会合を開いたのは、経済産業省と環境省が共同で設置した「サーキュラー・エコノミー及びプラスチック資源循環ファイナンス研究会」だ。これまでは、気候変動が金融活動のリスクや機会になると位置付けた議論が多かったのだが、そのテーマがプラスチック問題や資源循環にも広がってきていることは注目に値する。

鉄スクラップなどの再利用を金融面で推進できるか注目される(川崎市)

鉄スクラップなどの再利用を金融面で推進できるか注目される(川崎市)

研究会の開催要領には「サーキュラー・エコノミー及びプラスチック資源循環に資する取組を進める我が国企業が、国内外の投資家や金融機関から適正に評価を受け、投融資を呼び込むことができるよう検討を行う」と書いている。金融セクターというより一義的には「日本企業」が主語になっている。

循環経済への移行に必ずしも熱心でない企業が、投融資の引き揚げや投資家、資産運用機関などからエンゲージメント(是正の働きかけ)にさらされる事態を回避し、循環経済への移行に貢献している企業が広範に支持されていく環境を作る狙いがあると思われる。

従来の日本の循環経済へのアプローチにはいくつか特徴がある。まず、容器包装リサイクル法、家電リサイクル法、建設リサイクル法、食品リサイクル法、自動車リサイクル法、小型家電リサイクル法などの個別リサイクル法により取り組みがけん引されてきた。

一方、法律の網がかからない分野の資源循環は必ずしも進んできたとはいえない。製品の耐久性を高め、必要に応じた更新や修繕を可能にし、そのまま何回でも使えることを目指す、経済全体のグランドデザインの書き換えが希薄だった。

例えば、2016年度における国内の物質フローにおける循環利用量は2億4000万トン。00年度の2億1300万トンから12%余りしか増えていない。モノの経済の規模縮小で全体の物質投入量は25%減っているから、相対的な比率は高まっているが、循環資源が大きな流れにはなっていないのが現状である。

加えて、投入資源のうち輸入資源の量は7億4800万トン(00年度)から7億1000万トン(16年度)へ5%余りしか減っていない。依然として日本の経済活動は、海外からの輸入資源に頼っているといえる。

もう一つ、政策的に取り組みを進める動機は、廃棄物の不法投棄や処分場のひっ迫、海外ヘのリサイクル資源の輸出困難化など廃棄物が行き場を失うことを緩和するという点に置かれていた。温暖化ガスの排出や有害化学物質の拡散といった環境面のネガティブインパクトを重視することは相対的に小さかった。

◇ ◆ ◇

例えば、廃棄物の焼却時に出るエネルギーを回収・利用するサーマルリサイクルは着実に伸びてきた。廃プラスチック総排出量に占めるサーマルリサイクルの比率は05年の36.6%から、17年に58.0%まで上昇した。

ただ、金属くずやペットボトルなどの材料を再利用する「マテリアルリサイクル」も、化学反応で原料に転換する「ケミカルリサイクル」も物質循環の効果は大きいのだが、日本ではなかなか浸透しない。

粗鋼生産に占める電炉の割合は欧米などに比べて低い(中山鋼業の製鋼工場)

粗鋼生産に占める電炉の割合は欧米などに比べて低い(中山鋼業の製鋼工場)

粗鋼生産のうち、鉄スクラップを使う電気炉鋼材比率を国別にみると、日本は20%台に留まり、米国や欧州連合(EU)と比べて際立って低い。日本には天然資源を還元した鉄スクラップが大量にあるにもかかわらず、リサイクルされていない現状もある。

循環経済への移行を後押しする金融活動を構想するには、これまでの日本の政策枠組みを大きく切り替える意思決定も必要だろう。そもそも金融活動は、環境配慮の装いをまとった企業に自然に資金が集まるようなものではない。企業側に、将来変化を読み込んだ設備投資などの計画ができ、そこから一定のリターンを生み出せると読んだ投資家や銀行が資金調達に応じるのが本筋だ。

つまり、長寿命化や使用頻度を増すサービス(シェアリングやサブスクリプションなどを含む)や、拡大生産者責任を前提に使用後の製品回収を担う物流事業者への政策支援、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルの優先順位を改めて明確にする施策などがあって初めて投融資できる環境が整う。

◇ ◆ ◇

金融活動が容易に国境を越える時代に「日本企業」だけを対象にする必要はない。21日、三井化学は国連環境計画(UNEP)が主催するスタートアップ支援プログラムに参画し、プラスチック廃棄物削減に貢献する革新的なアジアのスタートアップ企業3社に助成金(各社1万ドル)を提供すると発表。UNEPと技術指導や運営支援に取り組むという。こうした新興企業が成長していくとすれば、多様な資金ニーズが生まれてくるだろう。日本企業と日本の金融機関が一緒に、海外のリサイクル企業を育てていく視点も有効だろう。

欧州には一日の長がある。循環経済への移行は、天然資源をめぐる安全保障と欧州企業の競争力を高めるというメリットを掲げている。欧州域内では産業の盛衰にともなう新たな資金需要が25年までに3200億ユーロ(約37兆7600億円)に及ぶと試算している。

欧州投資銀行は15日、「サーキュラーエコノミーガイド」と題する冊子を発表し、同行の循環経済に対する基本的な考え方を明らかにした。

日本においても、既存の枠組みから発想の転換を促し、実体経済の新たな資金ニーズをもとに循環経済への移行を後押しする金融活動の議論が深まることを期待したい。

[日経産業新聞2020年5月29日付]

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