春秋

2020/5/25付
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「パーッといきましょう」。もはや古典といってもいい東宝映画「社長シリーズ」で、宴会大好き部長が放っていた名セリフである。三木のり平さんのこの一声で、次の場面は新橋あたりの料亭でのチントンシャン。なんともベタな展開だが、これぞ昭和の風景だった。

▼縄のれんしか縁のない平社員も、ひと仕事終えたらパーッとやった。たくさん集まってガヤガヤと飲む。それが長年の、われらが飲酒のスタイルであった。もっとも平成の半ばごろからは宴会離れが進み、昨今、カウンターの1人客は珍しくない。文庫本を片手に、だれにも邪魔されずお銚子(ちょうし)を傾けるのはいいものである。

▼コロナ禍の時代が、この流れを強めること必定だ。政府の示す「新しい生活様式」を眺めれば――「大皿を避けて、料理は個々に」「席は横並びで」「おしゃべりは控えめに」「お酌や回し飲みはダメ」。校則みたいに細かいが、いまどきの飲み方を追認した格好でもある。昔ながらの献杯、返杯の習わしも絶滅しそうだ。

▼カウンターに間仕切りを設けたり、座席に×印を付けたりと、店のほうも苦心している。こうなると「パーッと」やれるのはオンライン宴会くらいか。冬場の鍋料理の集まりも当分は遠のきそうである。さすがにやるせないけれど、ここは昭和の映画でも、小津安二郎の作品によく出てくる独酌シーンなど見習うとしよう。

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