追跡アプリにプライバシーの壁 「情報銀行」のような機関必要
奔流eビジネス (D4DR社長 藤元健太郎氏)

2020/5/22付
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NIKKEI MJ

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、日本が初期にとった対策の1つがクラスター(感染者集団)追跡だ。感染者から過去の行動を聞き出し感染場所を捕捉。濃厚接触者をしらみつぶしに調べていき、感染者を隔離するという対策が取られた。しかし無症状者が多く、感染力も強い新型コロナに対しては、従来のアナログな追跡では限界があることもはっきりした。

中国ではスマホで健康データを提供し、商業施設などに入る仕組みが広がる(遼寧省大連市の商業施設)

中国ではスマホで健康データを提供し、商業施設などに入る仕組みが広がる(遼寧省大連市の商業施設)

そこで、感染者の監視や濃厚接触者の追跡を、テクノロジーで解決するアプローチが始まった。一番注目されているのはスマホを活用した追跡アプリだ。スマホの位置情報に加え、ブルートゥースの情報も使って近くの端末との距離を計測。後日、陽性が判明した人と自分が濃厚接触していたのかを知らせてくれる。

普段は基本ソフト(OS)で激しいシェア争いをしている米グーグルと米アップルも、今回は世界的危機に対応するために協力。スマホからデータを取得するための共通規格を定めて、各国政府のアプリ開発を支援している。

まずは国家主導でデータ管理を進めるシンガポール、インドなどの国が先陣を切っている。中国は「アリペイ健康コード」で行動履歴から感染可能性を色で判定し、緑は自由だが黄や赤になると交通機関や建物への入場などの行動が制限されるようになっている。

韓国では感染者の行動を捕捉するため、携帯電話データやクレジットカード利用履歴、防犯カメラ映像なども活用している。先日、集団感染したナイトクラブの利用者の追跡にも使われたが、このナイトクラブが性的少数者(LGBT)の人々も利用する場所であったことから、国家によるプライバシーの侵害に対して大きな懸念の声があがっている。

ふじもと・けんたろう 電気通信大情報理工卒。野村総合研究所を経て99年にフロントライン・ドット・ジェーピーを設立し社長。02年から現職

ふじもと・けんたろう 電気通信大情報理工卒。野村総合研究所を経て99年にフロントライン・ドット・ジェーピーを設立し社長。02年から現職

このようにプライバシーの問題もあるため、日本では完全匿名性で自分のスマホ内にだけデータを蓄積し、陽性者と自分が接触していたかどうかの判定だけに使えるアプリの開発などが政府と民間団体など共同で進んでいる。あくまで感染追跡利用目的でデータを活用するということだが、一方でそのためだけにアプリを使ってくれるのかという問題もある。多くの人が利用しなければ、利用効果も出ない。

今後はやはり、国家でもなく、一民間企業でもない「情報銀行」のような第三者機関に日常からデータを信託蓄積しておき、感染追跡サービス側で必要に応じて必要なデータだけを取得し活用するというスキームが望ましいのではないかと筆者は考える。地震など他の防災利用を考えても生活者の日常の行動データを非常時データとして活用できる仕組みは必要になるだろう。今後は身体に装着された様々なデバイスから取得されるバイタルデータなども、データとして加わってくると予想される。

これまでは一般データ保護規則(GDPR)のような、プライベートデータをどのように保護するかという議論が先行していた。これからは社会を疫病や災害から守るため、プライベートデータの集合体としてのパブリックデータの活用と、適切な匿名データの活用が大きな課題として浮上したと言える。

[日経MJ2020年5月22日付]

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