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春秋

「国民歌人」「民族の詩人」と呼ばれた斎藤茂吉は、生みの親とのとわの別れを59首の連作「死にたまふ母」に詠んだ。国語の授業で、いくつかをそらんじた方も多いだろう。急を聞いて東京からふるさとの山形へ駆けつけ、みとり、荼毘(だび)に付す様子がうたわれている。

▼茂吉の母の命日は5月23日だ。一連の作品では肉親をうしなった深い悲しみの表現の中に、この季節らしい動植物の息吹が読み込まれていて印象深い。それは、遠い田んぼで鳴き交わすカエルの声であったり、つがいと思われるのどの赤いツバメであったりする。日に照らされるナラの若葉やクワ、アケビの花も登場する。

▼このころ、茂吉は駆け出しの精神科の医師で31歳。長い冬を耐えて生き生きとしはじめた自然と、消えゆく命をくらべることで母への哀惜の気持ちをより強調したかったと取れる。そんな作歌の技法に加え、落ち込んだ自らの気持ちを立て直して、新生への一歩を踏み出したいとの希望もあったのでは、と推測したくなる。

▼収束の見えないコロナ禍で心沈む日々が続くゆえだろうか。今の時期、一歩外に出れば、木漏れ日が揺れて鳥が舞い、赤や白のバラなど花々が咲き匂う。そのパワーに励まされて、こんな歌の情景を早く取り戻したい。ひたぶるに/あそぶをさなごの/額より/汗いでにけり/夏は来向(きむか)ふ(茂吉)。もう少し、がんばろう。

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