情報洪水から「要」抜き出す
SmartTimes 東京農工大学教授 伊藤伸氏

2020/5/15付
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「Paper Digest」という人工知能(AI)を利用して学術論文の要約を提供するサービスが研究者の注目を集めている。2018年に無料で英語版のサービスを開始し、今では140カ国に1万5000人を超える利用者が存在する。

新聞記者を経て、2001年農工大ティー・エル・オー株式会社設立とともに社長に就任(現任)。2013年から東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授。大学技術移転協議会理事。

新聞記者を経て、2001年農工大ティー・エル・オー株式会社設立とともに社長に就任(現任)。2013年から東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授。大学技術移転協議会理事。

多くの研究者は時間に追われ、関係する学術論文をすべて読み通す余裕はない。英語が外国語の場合、読むべき論文かどうかを判断することも大きな負担になる。このサービスでは、ウェブサイトに論文の識別情報を入力すれば10秒以内で要約が得られる。利用者登録をすれば、手元にある論文のPDFファイルを活用することも可能だ。

一般に英語論文にはアブストラクト(要旨)が記載されているが、共同創業者の高野泰朋氏は「アブストラクトが映画の予告編なら、映画のネタバレを提供するイメージ」と説明する。

創業者は群馬県出身の高野氏とホンジュラス出身のクリスチャン・メヒア氏という国際的な組み合わせだ。2人は15年に東京工業大学の博士課程で出会った。ともに専攻は計量書誌学であり、研究を進めるために大量の論文を読む必要があった。この時間の課題を解決するサービスの重要性で意気投合したという。

最先端の学術論文は英語で発表されるとあって、事業開始当初から国際的な市場をターゲットにしていたが、短期間で非英語圏を中心に世界の研究者が利用するようになった。研究者の悩みは世界共通だったと証明されたわけだ。

背景には情報や知識が天文学的に増え続ける「情報洪水」がある。一人で個々の事象を詳細に把握できなくなるため、対象を検索、俯瞰(ふかん)して中核となる内容を抽出、整理する機能が重要になる。

このサービスにとって最大の課題は収益化であろう。現在は創業者による個人事業だが、すでに複数の海外学術情報企業と試験的なプロジェクトに取り組んでおり、1年以内の商用化を模索している。

現在サービスは無料だが、高度な機能の利用に課金する仕組みや広告などの導入が想定される。プログラムの継続的な改良も必要になるだろう。競合相手も存在するため、学術論文の検索、閲覧にとどまらず、AI技術の広範な応用先を開拓していけるかが成長のかぎになるかもしれない。

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、世界全体では、この数カ月に関連する学術論文が2万5000本近くも発表されている。Paper Digestの利用も増えているという。情報洪水の中から要となる情報を抜き出し整理するという今の時代を映す動きといえる。コロナに限らず情報や知識の爆発的な増加は今後も続き、そうした情報の処理には速さが求められるだろう。これに対応したサービスの需要が高まるのは確実とみられる。

[日経産業新聞2020年5月15日付]

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