「Zoom演劇」にみた企業の意義 デジタル技術で新市場ひらく
奔流eビジネス (アジャイルメディア・ネットワークアンバサダー 徳力基彦氏)

2020/5/15付
保存
共有
印刷
その他

NIKKEI MJ

新型コロナウイルスによる影響が様々な産業に広がっている。ウイルス感染がいつまで続くのか不透明だが、ビジネスに関わる人々が今真剣に考えなければいけないのは「産業やビジネスモデルが今後どう変わっていくべきなのか」という点だろう。

「カメラを止めるな! リモート大作戦」の一場面

「カメラを止めるな! リモート大作戦」の一場面

それを考える上で興味深い現象を1つご紹介したい。「Zoom演劇」と呼ばれる新しい演劇スタイルだ。緊急事態宣言が出る前からイベントや興行は典型的な「3密」の業態として自粛要請がなされ、演劇やコンサートの多くは中止や延期に追い込まれた。ただ、4月ごろから一部の劇団員や演劇の関係者が立ち上がり、ビデオ会議システムのZoomなどを活用し、役者一人一人が家にいながら演劇することに挑戦している。

Zoom演劇の草分け「劇団テレワーク」は後払いチケット方式で公演を開催している。「劇団ノーミーツ」がツイッターに投稿した「ダルい上司の打ち合わせ回避する方法考えた。」という動画も評判だ。「オンラインノミ」というZoom演劇は500円の有料だが人気を博し、ゴールデンウイーク中に毎日のように追加公演を実施した。

さらに、映画「カメラを止めるな!」の関係者は1日に「カメラを止めるな! リモート大作戦」という本編のスピンオフとも言える短編映画をZoom演劇さながらのスタイルで制作し公開。27分というユーチューブでは珍しい長尺にもかかわらず、30万回以上再生されている。

劇団員やカメラを止めるな!の関係者は新型コロナによる自粛要請期間を、家でじっと我慢する一時的な期間と捉えなかった。あくまで表現者として今自分達にできることを模索し、コロナ時代に適応した形で演劇や映画の制作を続けたのだ。

同じことを考えなければいけないのは、劇団員や映画関係者だけではない。すべての産業がコロナ感染拡大に何らかの影響を受けている現在、ウイルスが過ぎて元の世の中に戻ることをただ待つのではなく、影響が長期化した場合でも継続可能なビジネスモデルを模索することが、企業経営に求められている。

とくりき・もとひこ 名大法卒。NTTを経て06年アジャイルメディア・ネットワーク設立に参画、09年社長。19年7月からはアンバサダープログラムの啓発活動とnoteプロデューサーとしての活動に従事。

とくりき・もとひこ 名大法卒。NTTを経て06年アジャイルメディア・ネットワーク設立に参画、09年社長。19年7月からはアンバサダープログラムの啓発活動とnoteプロデューサーとしての活動に従事。

おそらくここで重要になるのが「ブランドパーパス」と呼ばれる企業それぞれの自らの存在意義に立ち返ることだろう。飲食店を店舗で食事を提供する事業ではなく、おいしい食事を顧客に提供する事業と考えればデリバリーに事業を拡大するのは当然だ。タクシーを「人」を運ぶ事業ではなく、車で自由に「もの」を移動できる事業と考えれば、買い物代行サービスも選択肢に入ってくる。

現実社会がウイルスにより3密を回避せざるをえない状況に追い込まれている一方、ネットの世界は「コロナフリー」だ。ある意味でこれだけデジタル技術が進化していたのは不幸中の幸いともいえる。劇団員やカメラを止めるな!の関係者は全員自宅に居ながら、演劇や映画すら作れることを証明した。

ウイルスの影響で自社のビジネスの存在自体が揺らいでいるような産業においても、インターネットやデジタル技術を駆使することで、可能になるビジネスモデルや事業がきっとあるはずだ。

[日経MJ2020年5月15日付]

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]