春秋

2020/5/1付
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カエデやケヤキの若葉にすがすがしい風が吹き渡る。風薫る5月である。「五月来ぬ心ひらけし五月来ぬ」(星野立子)。新緑の生命力に癒やされる美しい季節がめぐってきた。心ひらけし、とは陰りのない、真っすぐな言葉だ。晴れ晴れとした気持ちが伝わってくる。

▼去年の今時分、何をしていたのか。覚えておられる方も多いはず。平成の30年余りの時代が終わり、5月1日から令和に元号が改まった。東京・渋谷のスクランブル交差点には、雨がそぼ降るなか、改元カウントダウンで盛り上がる人波が寄せた。ネット上の動画を見ると、ハチ公前は身動きができないほどの密集だった。

▼恐ろしい。と、感じてしまうのは、すっかり巣ごもり暮らしになじんだせいか。去年は10連休だった。2400万人以上が帰省や国内外の旅行を楽しんだ。昭和から平成の代替わり当時の重苦しい自粛ムードは、みじんもなかった。思い思いに休日を楽しんでいた。わずか1年前のことだが、はるか昔のように感じられる。

▼立子の父は俳壇の巨頭、高浜虚子。春が尽き初夏を迎えるこの時期の句がある。「春惜(おし)む命惜むに異(ことな)らず」。晩年の作だ。父と娘の感性の違いが際立っていて興味深い。出会いと別れを繰り返した春を懐かしんでいると、命のはかなさを感じてしまう。そんな境地か。今の私たちの胸に響くのは、虚子の一句かもしれない。

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