脱CO2 日欧の溝埋まるか 資金誘導の議論必要に
Earth新潮流

2020/5/1付
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4月15日、欧州連合(EU)の閣僚理事会は「タクソノミー規制」の導入を承認したと発表した。気候変動の緩和または適応への実質的な貢献をもたらし、同時に他の環境目標に対する重大な害を回避する経済活動を体系的なリストにしたのがタクソノミー(事業分類)である。

環境イノベーションに向けたファイナンスのあり方研究会の資料

環境イノベーションに向けたファイナンスのあり方研究会の資料

そうした事業活動に官民の資金を誘導していこうとするサステナブル・ファイナンス政策を欧州連合は進めている。今回、理事会が規制の枠組みを正式に了承したことで、2021年末といわれる法的効力発効(気候変動関連2分野の事業分類が先行)が、さらに現実味を増した。

事業分類の内容については、数回にわたり原案公表と意見募集がされている。20年3月に公表された最終案も「天然ガス火力発電は100グラムCO2e/キロワット時の閾値(いきち)をクリアしつつ、50年までに排出ゼロを段階的に達成するものが適格」「自動車はゼロエミッション車(水素、燃料電池、電気)のほかは、25年までに走行時の二酸化炭素(CO2)排出量が1キロメートル当たり50グラム(燃費試験法はWLTP)で、それ以降は排出ゼロになる場合だけ適格」など、脱炭素社会における事業の姿に極めて高いハードルを設定したことが特徴だ。

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一方、わが国では経済産業省に設置された「環境イノベーションに向けたファイナンスのあり方研究会」が3月、「クライメート・トランジション・ファイナンスの考え方」を公表した。

再生可能エネルギーなどのすでに脱炭素化・低炭素化の水準にある活動へのファイナンスを促進していくことだけでなく、温暖化ガス排出産業部門が脱炭素化・低炭素化を進めていく移行の取り組み(トランジション)へのファイナンスも重要というのがその主張だ。

実は欧州の事業分類に関する最終案でも、「移行」の要素が欠落しているわけではない。「50年のネットゼロ排出経済への移行に貢献するが、現時点ではネットゼロ・カーボン排出レベルに近付いていない活動は経済にとって非常に重要であるものの、炭素集約的な資産又はプロセスの固定化(ロックイン)を伴わずに、産業平均を超えて大幅にその効率は向上させなければならない。これらの活動に関する技術的スクリーニング基準は定期的に改訂され、時間の経過と共にゼロに近付けられるものとする」と述べられている。

対して、わが国の「考え方」は「現段階において、技術的・経済的に脱炭素化が困難な産業分野であっても、各国・地域毎の実情に応じて、各国のパリ協定に基づく削減目標の達成に向けた移行の取組も、適格なトランジション・ファイナンスの対象とし、資金を誘導すべき」と読める点が最大の違いに映る。

今後は欧州と日本で意見が交錯する状況が予想される。欧州側は「パリ協定が目指す気温上昇の2℃目標達成に届かないことが明らかなのに、現状の国別排出削減目標だけを前提とした移行の取り組みを許容するのはハードルが低すぎる」と指摘したり、「気候変動にさも熱心に取り組んでいるように見せかけるグリーン・ウォッシュを排除するという投資家保護の観点が理解されていない」などと反応したりするだろう。

日本側は「社会に貢献しているからこそ現有の事業がある」「荒唐無稽なネットゼロ排出経済のみを前提とするのではなく、足元の幅広い産業の努力を評価すべきだ」と主張するだろう。

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こうした溝を果たして埋めることはできるのであろうか。先日、日本国内の有志の研究者グループが「トランジション・ファイナンス」のガイダンス(中間報告)を作成・公表したうえで、コメントの提供を広く呼び掛ける活動を始めた。

ガイダンスでは「現状は多くの国で化石燃料依存型の事業・資産・活動が経済の大半を占めている。新規のグリーンプロジェクトを増やすことに加えて、既存の旧来型事業を早急に転換・移行させないと、気候変動の抑制も、環境改善も十分には進まない」とし、「一方で既存の事業に安易に継続資金を供給するだけだと、旧来型事業の存続を長期化させる可能性もある」との問題意識を示した。

さらに「トランジション・ファイナンスによる目標との適合性、移行期間中のモニタリング、目標未達の場合の対応等のルールを確保する必要がある」と指摘し、「資金調達者の移行約束を確実にするため、目標未達成の場合の『罰則』として、移行ボンド(債券)の発行などの場合は変動クーポンレートの導入、ローンの場合は金利引き上げ等の条件設定が考えられる」とした。

筆者も同研究会にオブザーバーとして参画した。幅広い産業部門を許容しながらも、現前の努力だけを評価するのではなく、「パリ協定への整合性を確保するための規律づけを実務的にどう担保するか」を巡る議論は大変興味深かった。

目標を定めて逆算するバックキャスティングで考える欧州と現在からの積み上げで考える日本。もっぱら成果で評価が下される欧州と努力のプロセスを重視する日本。しょせん相いれないと言ってしまえばそれまでだが、こうした草の根の動きが両者の溝を埋める一石になれば、多少なりとも意義があるだろうと確信している。

[日経産業新聞2020年5月1日付]

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