映画・演劇、3密避けリモート制作 新たな表現法探る
映画や演劇といった集団制作で成り立ってきた現場で、リモートで創作し、発表する動きが相次ぐ。新型コロナウイルスの感染拡大という危機をはねのけ、新たな表現を探る試みだ。
「自分にできることは明るいエンターテインメントを届けること。誰かの希望になればうれしい」
2017年に話題をさらったコメディー映画「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督は今月、俳優やスタッフと顔を合わせないリモート制作に取り組んだ。映画の制作、公開が相次ぎ中止されている。「生活の危機にあるクリエーターに『知恵と工夫でもの作りはできる』と前を向くきっかけになる作品にしたい」
「カメラを止めるな!リモート大作戦!」は約20分の短編映画だ。物語は自宅待機中の映像ディレクターに「今月中に再現ドラマを1本作って」という難題が舞い込む。皆が自宅にいながら制作する遠隔撮影のドタバタ劇を、入れ子のように遠隔で撮影する趣向だ。
カメラは止めない
「周りのクリエーターが次々と仕事を失う中、『カメラを止めるな!』という映画のタイトルが自分自身に迫ってきた」と上田監督。短編には濱津隆之、どんぐりらが出演。ビデオ通話の画面や俳優が自撮りした映像を集め、監督が仕上げる。動画サイトのユーチューブで近く無料公開する。
俳優の斎藤工もリモート制作の映画企画「TOKYO TELEWORK FILM」を立ち上げた。テレワークが主題で、第1弾は出演者が本人役で登場し、ビデオ通話による近況報告などを映像化。こうした映像をネットで随時公開し、年内にもオムニバスの長編映画にしたいという。
演劇でも同様の試みが広がる。劇団「ロロ」は連作短編劇「窓辺」をユーチューブで配信。第1話は「オンライン飲み会」を開く2人の約20分の対話劇だ。
計6回。俳優たちは自宅にいながら、会えない人たちがビデオ通話でコミュニケーションをとろうとする様を演じた。脚本・演出の三浦直之は「集まることができない中、どう演劇的な行いができるか考えた」と語る。「話していても互いには触れない。それをモチーフに『通話劇』をしたら面白くなると思った」。5月中旬に第2話、6月上旬に第3話を公開する予定。

脚本・演出家の北川大輔が自身の劇団「カムヰヤッセン」の過去作をリメークした「未開の議場―オンライン版―」も稽古から本番まで全てがリモートだ。17~19日に計3回を生で配信した。舞台は商店街の祭の実行委員会が開くオンライン会議。外国人の受け入れを巡る住人の亀裂を描く今日的なテーマだ。「様々な分断が新型コロナで可視化された。6年前の作品だが、期せずして時節に合ったものになった」と北川。
映画や演劇は大勢の人が顔を合わせ、密接にやりとりしながら作品を完成させる。集団制作が難しくなった今、新たな手法を模索する動きが広がる。その潮流はテレビ番組にも及ぶ。
TV番組にも波及
ビジネスをテーマにしたテレビ東京のバラエティー「今日からやる会議」(毎週土曜深夜)は今月、収録をビデオ会議を使ったリモートに切り替えた。「画像だけだと単調に見えてしまう。編集で情報を多めに入れるなど、通常とは配慮する点が変わる可能性がある」と合田知弘プロデューサー。リモート制作した番組は5月から放送予定だ。
今までの常識を覆す試みだけに苦労は多い。演劇では自撮りだとカメラの画角が狭く、自然な演技をすると画面からはみ出してしまう。そのため稽古で身ぶり手ぶりを入念に確認したという。それでも「生身の俳優を見てもらいたい」(北川)という思いは強い。
演者やスタッフの士気を高め、観客をつなぎとめ、表現を守る。そんな決意がリモート制作の輪を広げる。
(関原のり子、北村光)
[日本経済新聞夕刊2020年4月28日付]
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