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カジダン医師への道 コロナ禍は病院の働き方も変えた

川崎市立川崎病院医師 田中希宇人氏

NIKKEI STYLE

新型コロナウイルス対策に伴う外出自粛を受け、我が家の3人の子供や妻も何かとストレスを抱えがちです。私自身はウイルスを家に持ち帰るのではないかということが心配。多くの世帯と同様に不安を抱えて過ごしています。

それでも、家族と患者さんの両方をサポートしていかなければと前向きな気持ちでいます。昨春、次女の誕生に伴い育児休業(育休)を取り、子育ての大変さを身をもって知ったことが大きい。

勤務先は365日24時間体制で重篤な患者を受け入れる拠点病院。10年前なら育休を取ろうとは考えなかったでしょう。背中を押したのは、所属する呼吸器内科の4人の医師のうち2人が女性だったこと。1人が子育て中のママドクターで、出産前後の大変さや誰かがサポートしないと家庭はまわらないなど、身近に聞いていたこともきっかけになりました。

とはいえ、多くの病院で長時間勤務が当たり前とされ、育休も取得しづらい現状があります。昔と大きくは変わりません。今回のコロナ感染症の拡大は、こうした医療現場に風穴を開けそうです。

例えば内科では、一人の医師が一人の患者さんにずっと関わる「完全主治医制」が根強く浸透しています。患者さんは、一人の医師を信頼して頼りにしている。医師も病院にずっといて応えることが、この仕事の本分という意識がどこかにあります。これらが長時間勤務につながっています。

今回のコロナ禍で、医療現場の報道が相次いでいます。患者さんが直面する苦悩だけではなく、医師や看護師、検査技師など医療スタッフも感染リスクに直面し、実際に罹患する。それぞれに家族もいる。医療スタッフも患者も「みんな同じ」という認識が起きているのではないでしょうか。

みんな同じであれば、流れる時間も同じ。ともに大切なものと認識できれば、長時間勤務の働き方が変わるのではないでしょうか。完全主治医制度から、複数の医師が関わるチーム医療に切り替えていく必要もあります。医師も患者さんも意識を変えていくことができれば進みそうです。

最近は男性医師でも家庭や子供を話題にして、パパトークができる人が増え始めています。「長時間勤務は本当に力を発揮すべき時に力が出ず、結局は患者さんのためにならない」と考えるようになっています。私が育休を取れたのも患者さんが理解してくれて、こうした同僚がチームを組んでカバーしてくれたからです。

足元では、テレビを使った診察や遠隔医療などが進みつつあります。コロナ感染症でみんな大きな苦悩に直面していますが、少しでも未来につながる道筋を見つけていきたいです。

田中希宇人(たなか・きゅうと)
 39歳。2005年慶應義塾大学医学部卒業、13年川崎市立川崎病院勤務。日本呼吸器学会呼吸器専門医など。ブログ「肺癌勉強会」やTwitter(@cutetanaka)で最新情報を発信中。

[日本経済新聞夕刊2020年4月28日付]

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