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春秋

6歳の少女の命を救うには、高額の手術しかない。そう人々が知れば、善意の寄付が集まるだろう。だが、病院の施設が老朽化して、救えるはずの命が救えない危機が生じている、と報道されても、涙を流して小切手帳に手をのばす人は、そんなに多くないはずだ――。

▼米国の経済学者トーマス・シェリングの論文の一節だ。公共政策の分析にゲーム理論を応用して、ノーベル経済学賞を受賞した。少女は、「顔が見える命」だ。一方、病院機能の低下で命の危険にさらされるのは、顔の見えない人々である。シェリングは、これを「統計上の命」と呼び、無関心を是正する方法を模索した。

▼この問いに重なるのがコロナウイルス禍だ。感染者と死者の数字が日々、更新されている。著名人を除けば、多くが顔が見えない統計上の命だ。ドイツのメルケル首相は、国民に呼びかけた。「これは単なる統計値ではありません。ある人の祖父、祖母、母、あるいはパートナーなど実際の人間が関わってくる話なのです」

▼シェリングの研究を発展させたのがシカゴ大学のリチャード・セイラー教授。時に不合理な人間に、強制をせず、より良い選択を促す「行動経済学」でノーベル経済学賞を得た。官製の標語を連呼するのではなく、動機づけの重要性を説いた。メルケルさんは遠回りのようだが、民主主義と愛を語った。わが国ではどうか。

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