東京五輪 持続可能性示す 資源循環や生物多様性 前面
Earth新潮流 日経ESG編集部 藤田香

2020/4/24付
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新型コロナウイルスの影響で2021年に延期になった東京五輪・パラリンピック。準備段階で経費が膨らんだことに加え、会場建設時のコンクリート型枠で基準に違反した熱帯材が使われていると非政府組織(NGO)が指摘するなど、持続可能性の面でも批判を受けてきた。

何かと批判を浴びている五輪だが、それでも水面下では企業が持続可能性の取り組みを着々と準備してきた。大会組織委員会は国連のSDGs(持続可能な開発目標)への貢献を掲げ、東京大会を「持続可能性のショーケース」にしようと計画し、企業もイノベーションを披露する場にすべく準備を進めた。

◇ ◆ ◇

有明体操競技場は東京五輪の新設会場で最も多く木材を使用している(東京都江東区)

有明体操競技場は東京五輪の新設会場で最も多く木材を使用している(東京都江東区)

東京五輪のスポンサーは81社、ライセンシーは約100社。組織委員会や企業が世界に打ち出そうとした技術や取り組みを紹介する。

第1は再生可能エネルギーや水素エネルギーの利用だ。東京大会は運営時の使用電力を再エネ100%で賄う。組織委員会が直接調達するのは再エネ100%電力のみだが、既設会場の電力契約により再エネに切り替えられない部分はグリーン電力証書で賄う。

輸送や選手村の中では水素エネルギーを幅広く活用する。トヨタ自動車が燃料電池車を500台投入するのに加え、東京都も燃料電池バスを70台に増やす。聖火台や聖火リレーのトーチにも水素を使い、その一部は福島県浪江町に3月にオープンした世界最大級の再エネ由来水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド」から持ってくる。

なお、選手村の移動用シャトルとして導入するのはトヨタの自動運転の電気自動車「イーパレット」。米デジタル技術見本市「CES」で注目を集めただけに話題になるだろう。

第2は資源循環の技術だ。東京大会は「ボトルtoボトル」「ウエアtoウエア」「紙to紙」という完全循環型のリサイクル技術を披露する。

100%リサイクルペットで作った「い・ろ・は・す」

100%リサイクルペットで作った「い・ろ・は・す」

脱プラスチックが進む中、日本コカ・コーラは会場の売店や自販機の飲料をすべてペットボトルで提供することを決めた。ただし、100%リサイクル素材で作ったペットボトルだ。同社は3月に100%リサイクルペットで作った「い・ろ・は・す」を発売したが、これを他にも広げ、メカニカルリサイクルによる「ボトルtoボトル」の技術を世界に示す。

アシックスは着古したスポーツウエアを回収してリサイクルし、日本代表選手団の公式ウエアを再生ポリエステルで製作した。シューズのアッパーや中敷きには100%、ジャケットには50%のリサイクル材を使用。ケミカルリサイクルで実績のある日本環境設計の協力を得て実現した。

従来の五輪ではソースなどで汚れた紙皿と紙コップを可燃ごみとして焼却していたが、東京大会はコアレックスの技術でトイレットペーパーにリサイクルする。

このほか、都市鉱山から金銀銅メダルを製作し、東日本大震災の仮設住宅のアルミ廃材から聖火リレーのトーチを作るなど、日本のリサイクル技術が光る。

3つ目は生物多様性に配慮した認証製品だ。東京大会は「持続可能性に配慮した調達コード」と木材・農畜水産物・パーム油・紙の4品目の調達基準を策定した。法令順守や生態系配慮、労働安全などの要件を定めており、それを満たすものとして認証品の活用を挙げている。

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五輪会場だけでなく市中でもこの基準に従った認証品の採用が増えてきた。日本航空(JAL)は機内食で、生態系や労働者の人権に配慮した海のエコラベル、MSC(海洋管理協議会)認証とASC(水産養殖管理協議会)認証の魚の提供を始めた。

実は既に機内食で認証水産物を累計12万食提供してきたが、この2月に羽田・成田発の便の機内食を作るケータリング会社とCoC(加工・流通過程)グループ認証を取得し、ようやくメニューにロゴマークを付けられるようになった。

明治は、チョコレートとアイスクリームに使うパーム油をRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証油に急ピッチで切り替えている。既に国内10工場で流通加工段階の「サプライチェーン認証」を取得。20年度中に国内製品の60%強を認証パーム油にする。菓子やドリンクの容器の紙は、20年度に100%FSC(森林管理協議会)認証紙にする予定だ。

日清食品のRSPO認証マーク入りのカップヌードル

日清食品のRSPO認証マーク入りのカップヌードル

日清食品もカップヌードルを生産する国内全工場でRSPOのサプライチェーン認証を取得し、2月からすべてのカップヌードルにRSPOのロゴを付け始めた。

木材では五輪会場の建設がきっかけで、森林認証の国産材の活用が拡大している。国立競技場の軒庇(のきひさし)には47都道府県のFSC認証とSGEC(緑の循環認証会議)認証のスギを使用している。大屋根のトラスには森林認証のカラマツを使い、国産材の使用は2000立方メートルに及んだ。

大規模木造建築物として目を引く有明体操競技場では、天井を支えるカラマツの大梁に北海道と長野の森林認証材を1670立方メートル、観客席の椅子に三重のスギを100立方メートル、外壁に秋田や宮崎、静岡・天竜のスギの森林認証材430立方メートルを利用している。

一方、選手村の中の交流施設「ビレッジプラザ」は全国63自治体から提供された森林認証の国産材で建てられた。「五輪で使われるのなら」と森林認証の取得に踏み切った自治体も数カ所あったという。五輪が契機となり、日本の森の森林認証の取得面積は、12年128万ヘクタールから19年には233万ヘクタールに伸びた。

これまでなかなか広がらなかった生物多様性の認証品。その普及に五輪が火を付けたことは間違いない。こうした流れをどう継続させていくのか。開催まで猶予ができた今、さらに取り組みを深化させ、持続可能性を社会に根付かせていくことが求められている。

[日経産業新聞2020年4月24日付]

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