春秋

2020/4/21付
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江戸時代の歳末のすす払いは、新年の年神を迎える儀礼だった。その慣行は現在も、過去の災厄を拭い去って福が来ることを願う年末の大掃除として受け継がれている。花王と国立歴史民俗博物館が進めてきた、「きれいにする行為」についての共同研究成果の一端だ。

▼外国の要人が江戸にやって来る際は、町人が道を清める習慣もあった。そうした人々の意識は、来客に備え玄関前を掃除する「門(かど)掃(は)き」に継承されている。昔から清潔にするという行為には、状況をリセットするはたらきがあるようだ。「新たな未来を迎えるきっかけになると信じられてきた」と、共同研究は言っている。

▼新型コロナウイルス対策で医師らが呼びかけている手洗いの徹底にも、感染拡大への不安が広がる重苦しさを切り替える意味があろう。地味な方法ではあるが、一人ひとりが励行する効果は大きいに違いない。衛生的にすることは、苦境に区切りをつけて再スタートを切るための日本人の知恵でもある。今が実践のときだ。

▼より専門的にいえば、清潔にする行為は「ケガレを祓(はら)う」意識の表れだという。不浄で災難をもたらすケガレは強い伝染力があるとされてきた。退散させる「祓い」という儀礼が定着したのは、社会の安定が損なわれることへの恐れからだろう。新型コロナも感染力が強い。危機感をしっかり持てと、民俗学は教えている。

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