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AIの将棋戦法が升田幸三賞 ヒトの想像力では限界?

NIKKEI STYLE

斬新な戦法を考案した将棋棋士らに贈られる2019年度の「升田幸三賞」がAI(人工知能)に贈られることになった。AIの時代に、人間に求められる創造性とはどんなものなのか。

「ソフトの名前がここまでなじんだ戦法はないのでは」(瀬川晶司六段)。「アマチュアにも分かりやすい。賞にふさわしい」(中川大輔八段)。1日に開かれた「升田幸三賞」の選考会では、選考委員から将棋ソフト「elmo(エルモ)」が広めた「エルモ囲い」を評価する声が相次ぎ、受賞が決まった。将棋AIともいわれるソフト発の戦法が同賞を受けるのは初めてだ。

将棋の戦法は大きく「居飛車」と「振り飛車」の2つに分けられ、玉をどう囲うかが序盤の大きなポイントになる。エルモ囲いは居飛車が振り飛車に対抗する際の囲いで、少ない手数で金銀を連結できる。過去にも指されたことのある囲いだが、エルモが多用したことで改めて脚光を浴びた。

中原誠名誉王座の「中原囲い」「中原流相掛かり」、藤井猛九段の「藤井システム」、近藤正和六段の「ゴキゲン中飛車」――。「新手一生」を掲げた名棋士、升田幸三実力制第四代名人にちなんだ同賞の受賞者にはそうそうたる棋士の名前が並ぶ。自身の名前や愛称がつく戦法を作り上げて同賞を受けることは、将棋の歴史にその名を残すことに他ならない。

棋士、複雑な思いも

それだけに、AIの受賞が決まったことに複雑な感情を抱く棋士もいる。「"悔しい"を通り越して、寂しいとも思う」。考案した「飯島流引き角戦法」で09年度の升田賞を受けた飯島栄治七段はこう打ち明ける。「夢が無い話だが、人間だけで新戦法を生み出すのは、もう難しいかもしれない」

エルモなどの将棋ソフトの多くは、今や誰でもネットからダウンロードでき、プロ・アマを問わず研究に利用されている。AIがトップ棋士をしのぐ棋力を持つに至った現在では「影響を受けていない戦法はない」(瀬川六段)のが実情だ。選考委員としてエルモ囲いを推した中川八段も「今後もソフトばかりが受賞するようだと棋士の存在意義が問われる」と危惧する。

人間の復権はなるか――。AIにも詳しい将棋界の第一人者、羽生善治九段はかねて、こう指摘する。「将棋のAIはいろんな選択肢、可能性を示してくれる。AIが出した答えを記憶して、という姿勢ではなく、AIで人間の発想の幅を広げて新しいものを生み出していく。それが一つの理想」

藤井七段も採用

今回のエルモ囲いは、エルモの棋譜から大橋貴洸六段ら若手が研究を進め、渡辺明三冠や藤井聡太七段らへと採用する棋士が広がった。エルモ開発者の滝沢誠氏も受賞コメントで「(エルモ囲いを)見いだして頂き、さらに情熱を持って研究された方々の多大な貢献のおかげ」と強調した。

飯島七段も決して諦めてはいない。「ソフトを使えば対抗策もすぐ出てきてしまうので、もちろん簡単ではないですが」と前置きしたうえで「自分で考えた手をソフトでブラッシュアップしたりして、チャンスがあればまた新戦法を作りたい」と自らを鼓舞するように語った。

(柏崎海一郎)

◇  ◇  ◇

井山三冠「新発想 囲碁を席巻」

囲碁ではAIが生み出した戦略によって、布石とよばれる序盤戦が様変わりした。いきなり相手の隅の構えに侵入して実利を稼ぐ「ダイレクト三々」が有名だが、トッププロでAI定石が現れない対局はほとんどなくなった。

きっかけは4年前、アルファ碁が突然登場し、世界トップ級の韓国棋士を破ったことだった。中国や韓国のプロ棋士らが高性能なAIを利用した研究合戦に突入した。

日本の第一人者、井山裕太三冠はAI全盛の囲碁界について「すごい時代になった。AIの新しい発想を棋士が学んだことで囲碁の可能性が広がった」と指摘し、「棋士がいかにオリジナリティーを出すかが問われている」と話している。

(山川公生)

[日本経済新聞夕刊2020年4月20日付]

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