春秋

2020/4/14付
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建築家・坂茂(ばんしげる)さんの「紙管(しかん)の建築」は構造設計家の松井源吾氏なくして実現はしなかった。派手な商業ビルが話題を集めるバブル経済のさなか、時代に逆行するかのように木や竹といった自然素材で建物を作ろうと考える野心的な建築家たちが松井さんのもとを訪れた。

▼紙や布をまきつける紙管を構造体とする奇抜なアイデアに70歳近い大家は苦笑しつつも、無償で坂さんの相談にのったそうだ。こうして出来上がった坂さんの建築はすばやく供給できて素人でも組み立てられる。阪神大震災以降には国内外で自然災害や紛争が起きるたび仮設住宅などとして使われ、多くの人びとを救った。

▼そして先日、神奈川県立武道館に紙管とカーテン一式が届けられた。被災地の避難所で個別空間をつくるための「間仕切り」セットだ。コロナウイルス感染拡大でネットカフェが閉鎖され行き場を失った利用者をここで受け入れる。今回は感染症専門家の満屋裕明さんの助言で、いわゆる3密状態をやわらげる工夫をした。

▼脚本家の木皿泉さんはエッセーに常識の「フレーム」をうまくはずすことが人を納得させる作品を書く秘訣だと記した。たしかに決まりきった発想で人の心は動かせない。坂さんは鉄筋コンクリートという建築の常識を紙で覆し、さらに専門家の知見を取り入れることで社会を動かした。コロナ禍に生きる教訓ではないか。

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