コロナ後の気候変動対策 周到で分かりやすい戦略を
Earth新潮流 日本総合研究所理事 足達英一郎氏

2020/4/3付
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日本は3月30日、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」における国が決定する貢献「NDC」を、現在の「2030年度に13年度比26%削減」のまま据え置くことを決定した。

COP25では石炭火力発電を続ける日本に国際社会から批判が相次いだ(マドリード)

COP25では石炭火力発電を続ける日本に国際社会から批判が相次いだ(マドリード)

19年12月の第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)の開催挨拶で、グテレス国連事務総長が「すべての政府が(略)気候緊急事態を打破するために必要な野心をもって、自国が決定する貢献を見直すことを、今から約束できるものと期待しています」と発言。いくつかの欧州諸国が外交ルートを通じて日本政府に向けて見直しの働きかけを行い、日本国内の複数のシンクタンクや市民セクターの団体も見直しに向けた提言を発表してきたものの、最終的な合意形成にはたどり着かなかった。

一方で、日本政府の統合イノベーション戦略推進会議は1月21日、「革新的環境イノベーション戦略」を決定している。これにあわせて、国立研究開発法人の産業技術総合研究所のもとに、19年のノーベル化学賞受賞者である吉野彰博士を所長に「ゼロエミッション国際共同研究拠点」が設立されたことはいくつかのメディアで紹介された。

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しかし、肝心の「戦略」の内容は必ずしも詳述されていないように感じられる。その理由はひとつではないだろう。とりわけ50年までの確立を目指す革新的技術として「エネルギー転換」「運輸」「産業」「業務・家庭・その他・横断領域」「農林水産業・吸収源」の5分野を掲げ、さらに16課題について計39ものテーマを挙げたことが逆に新鮮味を欠いたのではないかと感じる。

経産省、文科省、内閣府、環境省、農水省、国交省などが戦略づくりに関与したとのことだが、「今後10年間で官民で30兆円の研究開発投資を行う」との方針に呼応して、アクションプランのリストにひとつでも多くの関連テーマを入れ込んでおくことが、将来の予算獲得に有利に働くという思惑が働いたのではないかと想像される。

例えば「再生可能エネルギーを主力電源に」「シェアリングエコノミーによる省エネ/テレワーク、働き方改革、行動変容の促進」「農林水産業における再生可能エネルギーの活用」などは、既に政策課題に長らく挙がっている。実現の可否は技術革新より、制度・規制のあり方が鍵を握るものと考えられる。

他方で、「CCUS/カーボンリサイクルを見据えた低コストでの二酸化炭素(CO2)分離回収」「カーボンリサイクル技術によるCO2の原燃料化など」「最先端のバイオ技術等を活用した資源利用及び農地・森林・海洋へのCO2吸収・固定」などの課題に研究開発の焦点を絞ることが、合理的なのではないだろうか。

CCUSとはCarbon dioxide Caputure,Utilization and Storageの略で「CO2回収・有効利用・貯留」を指す。

欧州委員会の50年までに気候中立(排出量が実質ゼロ)を達成するための行動計画に関連して、持続可能な金融に関する技術専門家グループ(TEG)が3月9日に最終報告書を公表した。

そこでは持続可能性に貢献する事業の分類(タクソノミー)で、CO2回収・有効利用・貯留によって事業活動が閾値(いきち)をクリアできるのなら、それら事業は「持続可能性に貢献する」といえるという立場を示した。

こうした技術の利用が期待される産業セクターとして、最終報告書は電力、ガス、鉱業、鉄・非鉄、化学を明記している。例えば、油田で自噴しない原油を回収するためにCO2を油田の地下に注入し、その圧力で石油増産や油田の延命を図る石油増進回収法の技術開発を掲げる石油関連企業がある。CCS(CO2の回収・貯留)の仕組みで重要な役割を果たすのはCO2の輸送・地中圧入を担う「高圧ポンプ」とみて営業展開を強化する機械メーカーなど日本企業の動きも活発だ。

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また、「カーボンリサイクル技術」として注目を集めているのが「人工光合成」だ。通常、植物は太陽光を受けて水とCO2から酸素と糖を作るが、人工光合成は人為的に太陽光を活用して水とCO2から化学製品を生成する。

国内の技術研究組合が20年度内に開始する屋外実験では、水槽に光触媒を塗布したパネルを沈めて水素を取り出し、CO2と合成させてプラスチック原料などの化学製品をつくる計画だという。既に大手化学メーカーの中には、30年ポートフォリオの柱の1つに「回収・利活用」を掲げる企業も出てきている。

「わが国は、CO2回収・有効利用・貯留・固定の技術で世界の先頭を走る」と宣言するのなら、さらに明快なストーリーを発信した方がよい。

もちろん、グテレス事務総長の「今世紀末までの地球の気温上昇を必要な1.5℃に抑えるためには、30年までに排出量を対10年比で45%削減するとともに、50年までに気候中立を達成しなければならない」という呼びかけに応えることには当たらない。

それでも、世界各国の前に突然に出現した新型コロナウイルスによる危機は、一定の集団免疫率に到達した後、冷え込んだ経済活動をどう回復させるかに世の中の関心を一気に集中させることになろう。

その時、気候変動のことが忘れられてしまうことがないよう、周到かつ理解しやすい戦略を準備しておく必要がある。

[日経産業新聞2020年4月3日付]

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