テレワークの課題と未来
SmartTimes 大阪大学教授 栄藤稔氏

コラム(ビジネス)
2020/3/25付
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新型コロナウイルスの感染予防のため在宅勤務・テレワークが利用されるようになった。ICTの進歩でこれまでの常識だった距離、場所、時間の制約がなくなろうとしているのに、多くの伝統的大企業はこの制約を外してこなかった。

1985年松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所、NTTドコモのシリコンバレー拠点長や執行役員を経て2017年7月から大阪大学教授。みらい翻訳社長を兼務。

1985年松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所、NTTドコモのシリコンバレー拠点長や執行役員を経て2017年7月から大阪大学教授。みらい翻訳社長を兼務。

毎朝、満員電車に揺られて文書を印刷し、1時間以上の対面会議に出席するという日常が、皮肉にも新型コロナ対策で改善されようとしている。在宅勤務には仕事空間の確保と情報管理の課題があるが、多くの企業でテレワークが大規模に導入され、働き方改革が進むことになった。

テレワークの恩恵を受けることが難しい産業の関係者には申し訳ないが、筆者の仕事環境はICTの恩恵を受けてオフィスを固定しなくても仕事ができるように最適化されている。内容は(1)ビデオ会議システムで複数拠点の同僚と常時接続し、仕事状況を共有(2)電子メールではないコミュニケーションツールで組織丸ごと業務連絡(3)文書作成や進捗管理を全員でできるツールを導入し、ビデオ会議と並行して実行――だ。

会議の結果を曖昧にせず、同僚との連絡を頻繁にとる。笑いを取るネタでチャットをするという配慮をすれば、ほぼこれで定型的な業務ができる。ここで留意したいのは、最良のICTを用いてもできることは既存顧客と同僚との定型業務だということだ。

定例会議はビデオ会議システムで十分できるが、まだ会ったことのない新規顧客や新規パートナーとの打ち合わせは難しい。最新のビデオ会議システムは100人の同時参加も可能だが、5人を超えると活発な意見交換は難しくなる。

心理学で「ラポール形成」という用語があり、心が通い合う関係にあることを指す。働き方改革を歓迎する一方で、最新のICTでも相手の心の機微を感じることはできない。先進的ICT企業にテレワークをしない企業が存在した理由はここにあった。私の知るテレワークを推進する欧米ICT企業でもラポール形成のために、合宿や月1回の懇親会をしていた。

狭い閉鎖空間で多くの人と話さないという新型コロナ対策は理解している。残念なことに、それはラポール形成とは正反対の方向だ。相手に直接会うことの大切さを痛感している。

どうすればいいか。一つはこれを機会にICTを磨き、使い方を進化させることだろう。遠隔でもラポールを形成できる臨場感通信技術の進展に期待したい。それを「業務に即して時間・場所・方法を選択する働き方」と連携させる。

20年前,筆者は携帯端末向けテレビ電話を開発していた。その頃と比べて端末の通信速度は何倍になったかご存じだろうか。なんと千倍以上になっている。今のビデオ会議システムの性能はその頃とは雲泥の差だ。過去と今は違う。そして未来は今ともっと違う。

[日経産業新聞2020年3月25日付]

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