パリ協定、日本の目標見直しは 過ぎた提出期限、問われる本気度
Earth新潮流

2020/3/23付
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温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は、2030年ごろまでの削減の国別目標(NDC)を2月末までに各国が提出すると定めている。協定の運用が始まった20年を待たずに各国は気候変動枠組み条約事務局に目標を提出済みだが、これをより「野心的」なものに改めて再提出することが期待されている。

昨年開かれたCOP25の全体会合(マドリード、気候変動枠組み条約事務局提供)=共同

昨年開かれたCOP25の全体会合(マドリード、気候変動枠組み条約事務局提供)=共同

日本は現時点で、まだNDCを再提出していない。他国から厳しい視線が注がれ、目標を据え置く「ゼロ回答」では済ませられない状況だ。

2月、世界の投資家組織6団体が安倍晋三首相宛てにNDCの引き上げなどを求める公開書簡を出した。環境対策評価の非政府組織(NGO)CDPや気候変動に関するアジア投資家グループ(AIGCC)を含む。また、気候変動対策を推進する経済団体ウィー・ミーン・ビジネスも同様の文書を公開した。

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日本のNDCは30年度の温暖化ガス排出量を13年度比26%減らすというもの。英国や欧州連合(EU)の目標よりも見劣りし、NDC引き上げを表明している途上国に比べても熱意がないと国際NGOなどは主張する。

11月に開かれる第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で議長国を務める英国のジョン・マートン特使も2月、日本を訪問。政府関係者にNDC引き上げなどを直接求めた。EUも日本にたびたび対策の強化を呼びかけている。

日本の温暖化ガス排出量は世界全体の約3%にすぎない。なぜ、これほど目標の引き上げを求められるのか。

日本は多くの国にとって環境先進国と受け止められている。パリ協定に背を向ける米政府と良好な関係を保ち、トランプ大統領は安倍首相の話には耳を傾ける。19年には20カ国・地域(G20)首脳会議の議長国としてプラスチックごみの削減などで議論を主導した。

「日本が早々に目標を据え置くと表明したら、世界の温暖化ガス削減機運に水を差すという危機感がある」と自然エネルギー財団の大野輝之常務理事は説明する。政府が考える以上に、日本のリーダーシップへの期待は高いという。

しかし、国内でNDC見直しの議論が進んだ形跡はない。外務省は「国際ルール上、2月末の期限までに提出の必要がある」とし、政府内には「据え置きやむなし」との空気も広がっていた。

実は2月末までにNDCを改訂・再提出したのはパリ協定に参加する200近い国・地域のうちマーシャル諸島、ノルウェー、スリナム共和国、スイスのみ。40カ国・地域が目標引き上げを、100カ国以上が削減行動の強化などを表明してはいるが大部分が再提出はまだだ。

日本の環境省は、2月末の期限に縛られずにNDCの見直しができるとの立場だ。19年のCOP25に出席し、石炭火力を推進する日本の政策に対する強い風当たりを感じた小泉進次郎環境相が見直しに積極的という。最終的に外務省も「できるだけ早く」NDCの改定版を再提出する環境省の意向を受け入れた。

では目標は変えられるのか。26%という削減目標の引き上げは難しいとの見方が多い。経済産業省の30年の電源構成の見通し(エネルギーミックス)と連動するからだ。

同見通しは30年に化石燃料が電源に占める比率が56%、再生可能エネルギーが22~24%、原子力発電は20~22%などとしている。国のエネルギー基本計画にも反映されている。30年の温暖化ガス削減目標を引き上げるには、再生エネの比率を増やさなければならない。しかし基本計画の次期見直しは21年で、COP26に間に合わない。

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数値は変えないものの、温暖化ガス削減を加速する新たな行動を表明する案も浮上している。具体的には、国際的な批判が強い石炭火力発電所の建設計画の縮小や廃止を打ち出す。

小泉環境相は2月に、ベトナムの石炭火力の建設計画に対する公的支援に否定的な見解を示した。日越首脳会談での決定事項であるとの理由で計画は予定通り進むことになったが、今後は石炭火力輸出の要件を厳格化する方向で経産省、外務省と協議を始める。

日本が脱石炭へ向けた一歩を踏み出したと、国際社会に印象づけられると環境省はみている。ただ、経産省は「要件を見直すという結論ありきで議論するわけではない」(矢作友良審議官)とし、環境省と必ずしも歩調は合っていない。

目標数値は変えないが、現実の削減量が26%を超える展開も想定される。温暖化ガス排出は経済成長率と直結する。提出済みのNDCは成長率1.7%を想定するが、実際はこれを下回る公算が大きい。地球環境戦略研究機関は成長率を1%と仮定すれば、32%の温暖化ガス削減が可能と試算する。

これはあくまでも結果論であり、日本の温暖化問題に対する積極姿勢は伝わらない。最終的にどこまで本気でNDCを見直すかは、首相の政治判断にかかっている。

(編集委員 安藤淳)

[日経産業新聞2020年3月23日付]

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