働き方が10年先へ!? 遠隔会議、アバターで議論沸く
先読みウェブワールド (藤村厚夫氏)
「パンデミック」が宣言され、新型コロナウイルスの影響はますます先が見通せなくなっている。長期化に備えて新たな働き方や組織の運営の仕方も誕生しそうだ。

まずはIT(情報技術)を駆使した在宅勤務体制づくりだ。チャットやビデオ会議を活用して、原則として全社員が在宅勤務という大手企業が出始めている。それも緊急避難ではなく、新型コロナ終息後を見通した「未来の働き方」としての在宅勤務だ。
筆者のような昭和世代にとって驚きだったのは、「出社するより在宅のほうが仕事がはかどる」との声があがっていることだ。ヤフーの川辺健太郎社長は「むしろ生産性が上がっている」面があると認める。同社ほどの大所帯では会議のためにビル内を移動するのにさえ時間がかかる。GMOインターネットグループも緊急時に4千人の社員が在宅勤務をしたが業績に影響はなく、熊谷正寿代表は「オフィスが必要なのか真剣に考えている」というほどだ。
在宅勤務が常態化すれば、高額な都心の一等地に居を構えるオフィスの見直しが進みそうだ。さらに、在宅勤務が難しいといわれる訪問営業さえも見直しの動きがある。昨秋のある調査では、営業担当者は「働く時間の25%がムダ」と感じているという。
やみくもな訪問営業に代わり、「非訪問型営業」「オンライン商談」が徐々に浸透している。インターネットを通じて資料を請求してきた確度の高い見込み客に対し、電話営業やビデオ会議などを提案すれば互いの時間を節約できる。「マーケティング・オートメーション」の考え方がますます勢いを得そうだ。
一方、社員間のコミュニケーションも在宅勤務の課題だ。出社すれば社員同士の情報交換の機会は多い。一見ムダに見えるようなたまり場での無作為のやり取りが重要と指摘する声がある。
筆者の同僚はビデオ会議の仕組みを使って知人とバーチャル飲み会を開く。フェイスブック傘下のオキュラスが開発する仮想現実(VR)会議システム「オキュラス・ルーム」は、専用のゴーグルを装着すれば同僚らが身近にいる体験が得られる。立体音響効果で右にいる同僚の声は右側から聞こえる。

NTTデータや、リクルートの一部署であるアドバンスドテクノロジーラボもVR会議システムを開発している。ポイントは利用者がアバター(分身)を使えることだ。ビデオ会議では利用者の顔が大きく映し出されたり自室が見えたりして、抵抗を感じることがある。自分のイメージに近いアバターを仮想空間に置けば、もっと積極的に遠隔会議やチャットに参加できる人がいるだろう。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが最近、こうした仮想空間やロボットによる業務代行などを紹介する「2030年のオフィス、デジタル化どう進む?」との記事を掲載した。新型コロナの大流行をきっかけに「10年後」は急速に身近になってきた印象だ。もはや未来ではない。
在宅勤務では運動不足が気になる。以前にコラムで紹介したように、米国ではフィットネス器具を通じて遠くのインストラクターから指導を受けられるサービスが人気だ。福利厚生の一環で、こうした器具を在宅勤務社員に買い与える会社も出てきそうだ。
[日経MJ2020年3月23日付]
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