山火事多発が示す悪循環 林業重視の森林政策、転機に
Earth新潮流 日本総合研究所理事 足達英一郎氏

2020/3/6付
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ここ数年、大規模な山火事が世界を襲っている。2018年の米国カリフォルニア州の山火事では80.9万ヘクタール、19年の南米アマゾン川流域の山火事では89万ヘクタール、19年のロシア・シベリア地域の山火事では270万ヘクタール、19年のオーストラリア各地に広がった山火事では、1000万ヘクタールを超える延焼面積を記録したと言われている。

欧州委員会の国際会議で基調講演をするフランス・ティーマーマンス上級副委員長(2月4日、ブリュッセル)

欧州委員会の国際会議で基調講演をするフランス・ティーマーマンス上級副委員長(2月4日、ブリュッセル)

欧州連合(EU)の地球観測データプログラム「コペルニクス」によると、昨年8月1~25日のアマゾン川流域の山火事によるCO2放出量は2億5500万トン。昨年9月から今年1月6日までの豪州各地の山火事によるCO2放出量は4億トンになると推測されている。「気候変動により森林火災が多発し、それがCO2濃度をいっそう上昇させ、さらに気候変動を助長する」という悪循環のサイクルが現実になりつつあることを懸念する声は少なくない。

ちなみに豪州各地の山火事によるCO2放出量4億トンは、同国の年間排出量の7割超にあたる。人間の活動由来の排出を抑制しても、こうした山火事が毎年続くのであれば「焼け石に水」だ。

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森林は、CO2を吸収・固定する役割を果たし、その面積が増えることは地球温暖化防止に貢献するといわれる。しかし、このことは逆に、それを燃焼させてしまえば、大気中のCO2濃度を一気に高めるということを意味している。

国連食糧農業機関(FAO)の「世界森林資源評価(Global Forest Resources Assessment(FRA)」は、15年の世界の森林面積はおよそ40億ヘクタールであり、世界の陸地面積の約3割を占めていることを示している。その減少率は、1990~2000年期は年平均0.18%だったが、10~15年期には年平均0.08%になったとして、「森林面積の減少は減速傾向」と楽観的な見通しを示している。

他方、世界資源研究所(WRI)が運営するサイト「Global Forest Watch(世界森林ウォッチ)」では世界中の森林伐採状況が地図上で把握できるが、これを用いると18年の1年間で、熱帯地域の森林面積は1200万ヘクタールが減少、とりわけ1次熱帯雨林では360万ヘクタールが減少しているという推計もある。

実は、世界では植林により森林面積が大きく拡大している地域があり、このことが天然林面積減少を一部、打ち消して、世界の正味の森林面積減少を小さく見せているのだ。10~15年期の正味の森林増加面積が最も大きかったのは中国で、年間純増加面積は154万ヘクタール。第2位の豪州の5倍以上となっている。

中国国務院国家林業局は、35年までに毎年730万ヘクタールの造林を目指していく計画を打ち出している。また過去25年間、着実に正味の森林増加面積を伸ばしてきた(累計で900万ヘクタール)といわれるのが欧州地域で、ときに持続可能な森林管理のお手本にも例えられる。

それでも、人間が管理する欧州の森林は、特定の種類の木に限った造林の結果、気候温暖化を緩和していない、むしろ促進させていると指摘する最近の研究も出てきた。加えて、木質バイオ燃料やセルロースナノファイバーへの期待の高まりにも心配な側面がある。これらの起源が間伐材などの伐採された後の未利用木材である限りはカーボン・ニュートラルだと考えられるが、新たな森林破壊を生むのであれば、CO2濃度抑制には逆行してしまうからだ。

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要するに、現存する森林を徹底的に保護し、そのうえで十分に配慮がなされた植林を進めることが喫緊の課題なのである。昨年12月に、欧州委員会のフォンデアライエン新執行部が打ち出した「欧州グリーンディール」には、国際的に森林伐採や森林劣化のない輸入製品やサプライチェーンを構築する規制措置を講じることが盛り込まれた。具体的には、まず「違法伐採をしていない」証明ラベル取得を輸入木材製品に義務付けることなどが議論されている。同時に域内では「加盟国全体で排出CO2量を50年までにネットゼロにする目標」のために、森林を質と量の両面で改善し、山火事を防止する方向性が示された。20年中には、前回13年に作成された政策指針「EU森林戦略」を改定するという。

これに対し、厳しい森林保護策に農業関係者や林業関係者からは反対の声があがっている。環境重視の立場のなかでも、CO2を吸収固定を加速すべきだとして人工造林を許容する立場と、生物多様性保全を優先すべきだとして天然林の保全を重視する立場のあいだには微妙な温度差がある。

ただ、世界各国の森林政策は、これまで林業の振興を起点にする傾向が強かった。森林の多面的機能を強調しながらも、経済的に植林、営林が成り立つことを持続可能な森林管理の条件と見なしてきた。それがいまターニングポイントを迎えているように見える。1月16日、マイクロソフト社は30年までにCO2の排出量を吸収量が上回る(実質マイナスにする)「カーボンネガティブ」を達成すると表明したが、その声明では森林再生や新規造林がその手段になると位置付けた。こうした潮流は、わが国の森林政策にも今後、一石を投じることになるだろう。

[日経産業新聞2020年3月6日付]

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